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カテゴリー「マイナンバー、マイナンバーカードの利用拡大」の記事

2016年10月29日 (土)

小泉進次郎氏提案の「健康ゴールド免許」は、マイナンバーで実現?

 先日、「朝日新聞」などが小泉進次郎氏らが、健康管理に努めた人に褒美を与える「健康ゴールド免許」を提唱したと報じました。これは、過日の某ニュースキャスターの暴言ブログ記事と同じ穴の狢ではないか、「何だこの『きれいな長谷川豊』は」(某ツイッタラー)などと、色々話題になっています。

「朝日新聞」(2016年10月27日付け) 

健康ゴールド免許・勤労者皆保険… 小泉進次郎氏ら提言

 自民党の小泉進次郎・農林部会長ら若手議員が26日、2020年以降の社会保障改革のあり方について提言をまとめた。定期検診などで健康管理に努めた人を対象に、医療保険の自己負担を3割から2割に引き下げる「健康ゴールド免許」導入などの施策を打ち出した。・・・

「日刊スポーツ」(2016年10月27日付け) 

小泉進次郎氏「健康ゴールド免許」の導入を提案

 小泉進次郎氏ら自民党若手議員は26日、「人生100年時代」と位置づける2020年以降の社会保障制度のあり方に関する提言を発表した。
 次世代に向けた制度改革が目的で、約8カ月議論を重ねた。目玉の1つは、日々の健康維持管理を実践した人が病気になった際、受診時の自己負担額を減らす「健康ゴールド免許」の導入。・・・

■提言全文は、小泉進次郎氏のブログに

 記事にある提言は「人生100年時代の社会保障へ (メッセージ)」と題されたもので、自民党の「2020年以降の経済財政構想小委員会」(小泉進次郎氏は委員長代行)でまとめられました。現在、小泉進次郎氏のオフィシャルブログにて公開(PDF)されています。 

 小泉進次郎氏らは、日本が本格的に「人生100年を生きる時代」に突入する中で「戦後の高度成長期に形成された今の社会保障制度では、これからの私たちの多様な生き方に対応できないのではない」とし、「雇用形態に関係なく、企業で働く方全員が入れる社会保険制度を作ること。長く働くほど得をする、一人ひとりのライフスタイルに合った柔軟な年金制度を整備すること。健康に気を使っている方は自己負担が軽くなる、自助努力を促す医療介護制度にすること。」(小泉進次郎氏のオフィシャルブログ)の3つを提言しています。

■自助努力を促すための「健康ゴールド免許」

 「健康ゴールド免許」は、3番目の「自助努力を促す医療介護制度にする」ものとして提言されています。該当部分は次の通りです。

健康ゴールド免許 ~自助を促す自己負担割合の設定~

 2020年以降、高齢化の進展に加え、医療技術がますます高度化すると、医療介護費用が一層高額化していく。
 医療介護制度の持続可能性を確保するためには、「病気になってから治療する」だけでなく、そもそも「病気にならないようにする」自助努力を支援していく必要がある。
 医療介護費用の多くは、生活習慣病、がん、認知症への対応である。これらは、普段から健康管理を徹底すれば、予防や進行の抑制が可能なものも多い。 しかし、現行制度では、健康管理をしっかりやってきた方も、そうではなく生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられる。これでは、自助を促すインセンティブが十分とは言えない。
 今後は、健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けていただく。そして、健康維持に取り組んできた方が病気になった場合は、自己負担を低くすることで、自助を促すインセンティブを強化すべきだ。
 運転免許証では優良運転者に「ゴールド免許」が与えられる。医療介護でも、IT技術を活用すれば、個人ごとに検診履歴等を把握し、健康管理にしっかり取り組んできた方を「ゴールド区分」に出来る。いわば医療介護版の「ゴールド免許」を作り、自己負担を低く設定することで、自助を支援すべきだ。もちろん、自助で対応できない方にはきめ細かく対応する必要がある。
 また、現行制度では、自助で対応できる軽微なリスクも、大きな疾病リスクも、同じように支援している。例えば、湿布薬やうがい薬も公的保険の対象であり、自分で買うと全額負担、病院でもらうと3割負担だ。こうした軽微なリスクは自助で対応してもらうべきであり、公的保険の範囲を見直すべきだ。

 色々と問題のある提言ですが、そもそもどのようにして「健康ゴールド免許」を与える人を国民の中から選ぶのでしょうか。提言の答えは明確です。「医療介護でも、IT技術を活用すれば、個人ごとに検診履歴等を把握し、健康管理にしっかり取り組んできた方を『ゴールド区分』に出来る」とあるように、IT技術の活用です。

 あらためて説明する必要もないと思いますが、提言が想定しているIT技術とはマイナンバー制度のことでしょう。

■昨年の番号法改正により、メタボ健診事務にマイナンバーは利用可能に

 マイナンバー制度の根拠法である番号法は、2015年9月の改正により、特定健診(メタボ健診)の事務に利用することが既に可能となっています。特定健診の結果だけで「健康ゴールド免許」の該当者を選び出すだけなら、すぐにでも制度化できそうです。

 提言が、マイナンバーの活用と露骨に書かなかったのは、「さすがにそこまで言えば国民からの反発が大きいだろう」と、小泉進次郎氏はおそらくそう思ったからでしょう。ある意味流石です。

■マイナンバーによるプロファイリングと「ゴールド区分」

 今後、マイナンバーとカルテやレセプトなどの医療情報が結びつけられていけば、「健康ゴールド免許」を付与する者を様々な条件を加味して選び出すことが可能になるでしょう。すなわち、医療情報をはじめとする様々な個人情報をマイナンバーで名寄せし、国民一人ひとりをプロファイリングし、政府の決めた基準に従って「ゴールド区分」であるか否かの選別をするのです。

 当然、健康管理を取り組んできたものへの褒美だけでなく、怠ってきた者には、ペナルティー(例えば、某ニュースキャスターが言っていたような医療費の全額自己負担)を与える話も出て来るでしょう。

 こんな制度を入れれば、長時間労働や低賃金で健康管理をする余裕のない者にペナルティが科せられる一方、時間的にも金銭的にも余裕のある富裕層がますます得をすることになるのは、火を見るより明らかです。

■「マイナンバーで社会保障制度改革」は小泉二代の悲願?

 ところでマイナンバーは、「社会保障と税の共通番号」ですが、導入構想の出発点の1つは父親の小泉純一郎首相の下で検討された社会保障番号です。

 当時、自助・自立、自己責任が強調され、介護や保育などを中心に社会保障の市場化・営利化が進められていました(現在もですが)。社会保障番号は、こうした社会保障改革を進めるための道具、社会保障給付を「真に手を差し伸べるべき者」だけに重点化・効率化するためのものとして考え出されたものでした。

 国民としては堪ったものではありませんが、番号制度で社会保障の改革(=解体)は、小泉二代にとって、どうしてもやり遂げたい悲願なのでしょう。

2016年9月 7日 (水)

マイナンバー、勤務先に知らせなくても健保組合は住基ネットで勝手に調べることができる話

 2017年夏頃から、健康保険事務もマイナンバー(個人番号)を事務処理に使うことになっていますが、健康保険組合は加入者のマイナンバーをどのようにして取得するのでしょうか。

 雇用主(勤務先)に従業員が、本人と扶養家族のマイナンバーを告知する(書類に記入する)ことで、健保組合に伝わる、だから告知しないと健保組合はマイナンバーがわからないと思っている人がほとんどだと思います。

 しかし、従業員が雇用主に告知しなくても、健保組合は本人(組合員)と扶養家族のマイナンバーを住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)を使うことで取得できるのです。

■厚労省は健保組合などに「住基ネットを用いたマイナンバーの取得」ができると説明

 厚生労働省は、今年の6月から7月にかけて、健康保険組合、国民健康保険組合、後期高齢者医療広域連合に向けた「医療保険者等における番号制度導入に関する説明会」を開催しています。その際に配布された資料が厚生労働省のサイトで公開されています。

 健康保険組合向けの第1回説明会で配付された資料(PDF)を見てみると、その6頁に「個人番号の取得経路は『事業主からの取得』『加入者からの直接取得』『住基ネットを用いた取得』の3つが存在します」とあります(下図)。

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 従業員のみなさんは、現在、雇用主にマイナンバーを告げることが求められていると思いますが、これは3つの取得経路のうちの「事業主からの取得」にあたります。
 一方、雇用主からではなく加入している健保組合からマイナンバーを求められている方もいるでしょう。これは「加入者からの直接取得」です。

 7頁には、これら3つの取得経路についての概要、メリット、デメリットが書かれています(下図)。

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 そのうちの「住基ネットを用いた取得」、すなわち「住基ネットからの取得(J-LIS)」については、次のように書かれています。

概要
■【平成28年10月~3月(予定)】
 健保組合が送付する電子媒体に格納された情報を用いて、J-LIS職員によって住基ネットから個人番号を取得する
■【平成29年4月開始予定】
 医療保険者等向け中間サーバー等を通じて住基ネットから個人番号を取得する

メリット
■電子媒体の準備・送付の後、J-LISが取得作業を担う
■本人確認作業が不要
■取得対象の加入者への事前周知は不要

デメリット
■住所情報等の不一致等により、該当する個人番号が取得できない場合もある(ヒットなし/複数ヒット)
■手数料(10円/1件照会)やセキュリティ便の送付に係る費用負担が発生する

■マイナンバー取得、当初は電子媒体を使って、2017年4月以降はオンラインで

 これだけではわかりにくいと思いますが、手順をもう少し詳しく言うと、

 (1)健保組合は、組合員本人と扶養家族の住所・氏名・性別・生年月日を電子媒体(CD-RやDVD、USBメモリー等)に記録する。
 (2)電子媒体をJ-LISに送る。
 (3)J-LISは、電子媒体に記録された住所・氏名等をもとに、住基ネットの全国サーバーを検索し、一致する者を見つけ、その者のマイナンバーを電子媒体に書き込む
 (4)マイナンバーが書き込まれた電子媒体が、健保組合に返送される

 ただし、2017年4月以降(新規加入者等)は電子媒体ではなくオンラインでJ-LISから取得することになります。

※ J-LISは地方公共団体情報システム機構の略称で、同機構はマイナンバーシステムの管理とともに住基ネットの管理も行っている地方公共団体情報システム機構法に基づく地方共同法人です。

※ J-LISが管理する住基ネットの全国サーバーには、現在、住民基本台帳法にもとづき住民登録をしているすべての国民・在留外国人の住所・氏名・性別・生年月日と、住民票コード、マイナンバーなどが記録されています。

 では健保組合はいつまでに組合員等のマイナンバーを取得するのでしょうか。第1回説明会で配付された資料の8頁を見ると、「事業主からの取得」「加入者からの直接取得」は2017年1月末までに、一方「住基ネットを用いた取得」については、2017年3月までは電子媒体を使い、以降は「中間サーバー等経由」でとしています(下図)。

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■従業員は雇用主に告げなくても、健保組合は住基ネットでマイナンバーを取得できる

 というように住基ネットを利用することで、健保組合は本人と扶養家族のマイナンバーを本人に事前に知らせる必要もなく勝手に取得できるのです。もちろん合法的(憲法に反しているか否かは別ですが)にです。

 ですから、「マイナンバーを知らせたくない」と思って、従業員が雇用主に告知することを拒否したとしても、健保組合は住基ネットを使って、マイナンバーを取得してしまうのです。
 逆に言えば、雇用主は従業員からマイナンバーを無理に聞き出す必要はないのです。番号欄が白紙のままの書類を健保組合に出して「あとはそっちで勝手に調べろ」でも、事務処理という点では全く問題ありません。

 なお、国民健康保険組合、後期高齢者医療広域連合については、「住基ネットを用いた取得」のみ用意されています。「加入者からの直接取得」を厚労省は予定していませんから、これらの加入者については、組合等から本人や扶養家族のマイナンバーを聞かれることは本来ありません。
 とはいうものの制度を理解していない職員から、国保加入者にもかかわらずマイナンバーを聞かれることがあるかも知れません。しかし、聞く必要も告げる必要も事務処理上は全くないのです。もし書けと言われたら「厚労省は住基ネットで調べるといってますよ」と言えば済むはずです。

■住基ネットで一致する者が見つからない場合も

 健康保険組合向けの第1回説明会で配付された資料(PDF)のQ&Aに次のように書かれています(49頁)。

ご質問
 加入者の個人番号取得はすべて住基ネットから取得してもよいですか。
 
ご回答
 住基ネットからの個人番号の取得については、「本人確認が不要」であること、また、「取得することを取得対象加入者に事前周知は不要」などのメリットがある一方、基本4情報(氏名、生年月日、性別、住所)が一致しないことにより、取得できない場合や、逆に3情報以下での検索により、複数一致する場合もございます。
 予定していた加入者の取得ができなかった場合、平成29年1月末までに番号を取得することが困難となることも考えられ、情報連携に向けたテストや平成29年7月からの情報連携も行うことができなくなるなど、番号法上の情報提供者としての責務が果たせなくなることから、個人番号の取得については、住基ネットからの取得のみではなく、事業主や加入者からの取得を十分考慮して考えていくことが望ましいと考えます。

 雇用主(=健保組合等)に、住民票通り(住基ネットのサーバーに記録されている通り)の住所・氏名・性別・生年月日を届けていない場合は、住基ネットのサーバーを検索しても一致する者は見つかりません。見つからなければマイナンバーの取得もできません。

 では、どれくらいの人が、見つからないのでしょうか。参考になる数字があります。

 社会保険庁(現、日本年金機構)は、2006年頃から年金受給者の住所・氏名・性別・生年月日を地方自治情報センター(現、J-LIS)に送り、住基ネットのサーバーと照合し、住民票コードを得てきました。この作業は、その後、年金加入者全体へと拡大されました。第6回社会保障審議会年金事業管理部会(2014年11月28日)の資料3「社会保障・税番号制度への対応について(案)」(PDF)の3頁によれば、2014年2月の時点で、日本年金機構は「被保険者、受給権者、受給待機者等の約94%の住民票コードの収録」を済ませています。

 ほとんどの年金加入者は、住民票通り(住基ネットのサーバーに記録されているとおり)の住所・氏名・性別・生年月日を雇用主(=日本年金機構)に届けていたのです。
 この数字から見て、健保でも一致しないなどのエラーは出てもせいぜい数%程度に収まりそうです。

■年金機構も住基ネットでマイナンバーを取得

 日本年金機構が、住基ネットで得るのは住民票コードだけではありません。この資料3「社会保障・税番号制度への対応について(案)」(PDF)の4頁には、次のように書かれています。

《マイナンバーの収録作業》
(1)初期突合・・・収録済みの住民票コードを基にしたマイナンバーの紐付(平成27年10月~12月)
 ○被保険者、受給権者、受給待機者等
  収録済みの住民票コードを基に、住基ネットからマイナンバーを収録する。

 既に得ている住民票コードをもとに、住基ネットからマイナンバーを取得するのです。加入者等からマイナンバーを聞き出す必要は、住民票コードの不明な者(全体の約6%)を除けばありません。
 ただし、日本年金機構からの個人情報の漏えい事件を受け、番号法の一部改正(2015年9月)により、同機構のマイナンバー利用は延期(最大2017年5月まで)されています。このためマイナンバーの収録作業も先延ばしされています。

 以上見てきたことからおわかりのように、健保も年金も、雇用主の手を煩わせてまで本人からマイナンバーを聞く必要などないのです。

 税に関してはどうでしょうか。まだはっきりとしたことはわかりません。しかし、国税庁は、所得に関する情報を住民登録のある市町村と共有していますので、市町村に問合わせれば(手動ではなく、ネットワークを経由して自動的に)、マイナンバーを取得することが可能となると思われます。
 また、住基法の改正により国税庁は住基ネットの利用が可能となっていますから、健保組合と同様のやり方で取得することも可能でしょう。

■住基ネットで見つからなかった場合、マイナンバーを誰に聞く?

 では、加入している健保組合などが「住基ネットを用いた取得」を試みた際に、該当者なし(不一致等)となった場合、どうなるのでしょうか。

 日本年金機構は、住民票コードの取得に際し、不一致などにより得られなかった加入者に対しては、2015年4月から住民票住所の申出勧奨状(住民票住所申出書)を届出住所に送付し、住民票住所を確認のうえ、あらためてJ-LISに照会を行っています。
 もし、加入者がこの住民票住所申出書に答えないとどうなるのでしょう。日本年金機構が送付している「『住民票住所申出書』の送付について」【PDF】には、「期日までに本届のご提出がない場合、会社員の方はお勤め先(第3号被保険者の方は配偶者のお勤め先)に住民票の住所についてお尋ねすることがあります」と書かれています。

※ 日本年金機構から「住民票住所申出書」が送付されている件について、日本共産党の小池晃参議院議員は厚生労働委員会(2015年8月25日)において「「マイナンバーが施行もしていない(筆者注、番号法は2015年10月5日に一部施行)のに、マイナンバーのためだといって脱法的にやっている。行政のやり方として非常に問題だ。マイナンバーは制度そのものに問題があり、全面的に見直すべきものだ」と主張しています。(「赤旗」2015年8月26日付け

 一方、マイナンバーの取得については、住基ネットを使ってもできなかった場合、「平成28年度のねんきん定期便において届出勧奨を実施する」としつつも、「事業主に対してマイナンバーの未紐付者の一覧を送付し、マイナンバーの報告を求める」(資料3「社会保障・税番号制度への対応について(案)」【PDF】4頁)ともしています。

 「住基ネットを用いた取得」を選択した健保組合の場合も同様に、マイナンバーを住基ネットから得られなければ、まず本人に問合わせをし、返答がなければ雇用主に問合わせることになるでしょう。

 では、問い合わせを受けた雇用主はどうするのでしょう。不一致となった従業員に対し、「正しい住所・氏名・性別・生年月日はどうなっているのか」と聞くだけでなく、中には「なぜ住民票通りに届けていないのか」と理由を質すところも出て来るでしょう。ブラックな企業が普通に存在する日本社会ですから、最悪の場合、雇用問題に発展するかも知れません。

■「番号を書く、書かない問題」は長くは続かない

 本稿で述べたような住基ネットを使ったマイナンバーの取得が行われることについて、私は拙著『マイナンバーはこんなに恐い!』(2016年2月25日発行)で、既に「予言」していました。
 健保や年金、税などの個人情報がマイナンバーと紐付けられるのが嫌で、雇用主や役所にマイナンバーを告げることを拒否している、拒否したいと考えている人も多いと思います。しかし、これまで見てきたように、税はまだわかりませんが、少なくとも健保と年金の情報については、政府は住基ネットを使って、本人の意思とは関わりなくマイナンバーと紐付ける予定であり、そのための準備を着々と進めているのです。
 マイナンバーを書かない、言わないだけでは、マイナンバーと個人情報が結びつけられることを防ぐのは困難なのです。それが現実です。
 こうした点について関心のある方は、拙著をご購入の上、「『番号を書く、書かない問題』は長くは続かない」の項(24頁)などをぜひご覧ください。

2016年8月29日 (月)

「東京五輪の観戦・移動・宿泊をカード1枚で」のカードは、マイナンバーカード? それとも・・・

 2016年8月26日付けの「朝日新聞」は、

 総務省は2020年の東京五輪・パラリンピックを訪れる外国人向けに、ICカード1枚で交通機関の利用や競技場への入場、ホテルへのチェックイン、買い物などがすべてできるようにする。日本の先端技術を体感できる『おもてなし』の目玉にする考えで、来年度予算の概算要求に事業費10億円を盛り込む。

と報じました。へぇ~そんなことを考えているのかとびっくりされたかとも多いかと思いますが、このICカードには、どのようなカードが想定されているのでしょうか。ちょっと調べてみました。

■ロードマップ(案)では、訪日外国人にも、マイナンバーカードを使わせる予定だが

 2015年5月20日に開催された政府のIT総合戦略本部のマイナンバー等分科会では、「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」(下図)が議論されています。ロードマップ(案)は、福田峰之・内閣府大臣補佐官(当時)が提案したものです。ロードマップ自体は案のままでしたが、その内容の多くは翌月の30日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2015)」などに盛り込まれました。

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 ロードマップ(案)の2019年のところには「住民票を有しない在留邦人や訪日外国人に在外公館において個人番号カード交付」(下図)とあります。個人番号カードとはマイナンバーカードのことですね。そこから矢印が伸びたところ―2020年ですが―には「バーチャルレジデントサービスの活用」とあり、さらに「オリンピック会場入館規制(7・8月)」と書かれています。この「入館規制」には「興行チケットや携帯電話の本人確認販売・・・」(2017年)や「個人番号カードや・・・」(2020年)からも矢印が伸びてきています。こうしたことから、ロードマップ(案)は、記事でいうところの「訪日外国人がICカードで競技場への入場ができるようにする」ことをうたっているものと理解して良いでしょう。

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 このように先の記事の話は、ロードマップ(案)と重なるところがあり、その具体化として見ることができます。ただし、「訪日外国人に個人番号カード交付」や「オリンピック会場入館規制」は「骨太の方針2015」などには明記されていません。あくまでもロードマップ(案)での話です。

 さらに記事を読んでみます。そこには

 利用者は事前にパソコンなどで情報を登録して個人ごとの『おもてなしID番号』を受け取り、チケットやホテルを予約するときにIDを入力する。日本に入国したら『スイカ』などの電子マネーカードを買い、空港などに置かれる端末でIDをカードに記憶させ、希望の金額をカードにチャージする。

と具体的な話が書かれています。
 ロードマップ(案)ではマイナンバーカードでしたが、記事では「スイカ」などの電子マネーカードとなっているのです。どういうことでしょうか。

■観光ビジョン実現プログラム2016は、交通系ICカードやスマートフォン等を活用と

 政府は、2016年5月13日に開いた観光立国推進閣僚会議(主宰:内閣総理大臣)の第6回会合において、「観光ビジョン実現プログラム2016(観光ビジョンの実現に向けたアクション・プログラム2016)」(PDF)を決定しています。
 そこにはこうあります。

・ 2020年までに、「IoTおもてなしクラウド事業」において、交通系ICカードやスマートフォン等を活用し、外国人旅行者への言語等の個人の属性に応じた観光・交通情報、災害情報等の選択的配信についての実証実験を経て、社会実装化し、利便性のあるICT環境を構築

・ 交通系ICカードやスマートフォン、デジタルサイネージ等と共通クラウド基盤を連携・活用し、外国人旅行者に対して、災害時等の緊急時の一斉情報配信や言語等の個人の属性に応じた情報提供、支払手続の簡略化等についての実証実験(IoTおもてなしクラウド事業)を行い、小売、交通、宿泊等における利便性向上等に資する基盤を構築し、2020年までに社会実装を行う。【改善・強化】

 政府の方針では、マイナンバーカードではなく、交通系ICカードやスマートフォン等を活用するようです。

■手間が煩雑な割には、たいしたことのないサービス

 記事は、「観光ビジョン実現プログラム2016」についてのものだったのですが、その内容はどのようなものでしょうか。

 利用者は、(1)事前にパソコンなどで情報を登録して個人ごとの「おもてなしID番号」を受け取る (2)チケットやホテルを予約するときにIDを入力する (3)日本に入国したらスイカなどの電子マネーカードを買い、空港などに置かれる端末でIDをカードに記憶させ、希望の金額をカードにチャージするとしています。かなり煩雑ですね。訪日した方たちは果たしてスムーズに行えるのでしょうか。
 そもそも「希望の金額をカードにチャージする」だけなら駅にある券売機で充分ですし、あらかじめチャージしたカードを空港で販売(出来れば外国語が話せる者が対面で)すればその方が、訪日客には便利でしょう。IDをカードに記憶させる機械―何台ぐらい設置するのかわかりませんが―を空港に設置する経費がもったいないような気がします。

 一方、提供されるのはサービスは、(1)購入した電子マネーカード1枚で、交通機関の利用や競技場への入場、ホテルへのチェックイン、買い物ができる (2)駅の改札や、競技場やホテルに置く読み取り端末にカードをかざすと、母国語で競技場への行き方や災害情報などが表示される(あらかじめ登録したスマホにも同じ情報が届く)というものです。
 交通系ICカードには無記名式のものもありますから、あえてIDを登録する必然性がわかりません。残金が不足すれば、最寄りの精算機や券売機でチャージすれば事足ります。また、ホテルへのチェックインはどうでしょう。カードを示せば、例えばパスポートの提示が省かれるのでしょうか(省くためには「おもてなしID番号」とパスポートとの紐付けが必要ですが、どこでどうやって行うのかの問題が生じます)。どこが便利になるのかわかりませんし、買い物なら慣れているクレジットカードをそのまま使うのではないでしょうか。
 災害情報の表示については有効かも知れません。しかし、競技場への行き方なら便利なGoogleマップ―おそらくこちらも使い慣れているであろう―があります。余談ですが、私自身、海外に出かけた際には、Googleマップのおかげで、ほとんど迷うことなく行きたいところに行くことができています。

■10億円の予算は「IoTおもてなしクラウド事業」に?

 とにかく、手間のかかる割にはそれほどたいしたサービスだとは思えませんが、果たしてどれだけの訪日外国人が使うのでしょう。

 ところで、記事にある来年度予算に向け概算要求した事業費10億円は「観光ビジョン実現プログラム2016」にある実証実験(IoTおもてなしクラウド事業)に使うものでしょうか。それともシステムの本格構築でしょうか。わからないので、総務省のサイトで「IoTおもてなしクラウド事業」について検索してみました。

 すると「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」の第5回(2016年6月23日)の配付資料 「アクションプランの進捗状況」(PDF)が見つかりました。その4頁には、2016年度予算として既に6億5千万円が計上されていることが書かれています(下図)。大きな額ですね。

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 2016年度の『情報通信白書』の第1部第1章の「第3節 経済成長へのICTの貢献~定量的・総合的な検証~」(PDF)の59頁にも「IoTおもてなしクラウド事業」についての記述があるのがわかりました。

 平成28年度予算「IoTおもてなしクラウド事業」では、共通クラウド基盤の構築を行い、そこに個人の属性情報を登録し、各サービスIDとひもづけ、交通系ICカードやスマートフォンをトリガーとして、各種サービス事業者とID連携することにより、支払手続きの簡略化、美術館(イベント会場)のチケットレスサービス、レストランでのアレルギー情報、ホテルのコンシェルジュとタクシーの情報連携などの実現に向けた実証事業を行うこととしている。また、政府全体での観光立国推進に向けて、本環境の整備により、訪日外国人が、入国時から滞在・宿泊、買い物、観光、出国までストレスなく快適に過ごすことが可能となり、インバウンド拡大による経済活性化に寄与することも期待される。

 以上の資料から2016年度の予算6億5千万円は実証事業のためのものだとわかりました。ということは来年度予算の概算要求として上げられている10億円はシステム構築のためなのでしょう。
 果たして本当にこれだけで済むのでしょうか。2020年に向けて、膨れあがることはないのでしょうか。また、そもそも16億5千万円もの費用をかけてまで構築する必要があるものなのでしょうか。
 オリンピックのためと言えば何でもOKの風が、政府の中に吹いているような気がしてなりません。

■おまけ

 この記事について、Twitterでは「訪日外国人だけでなく、日本人も使えるようにして欲しい」との声が―ごく少数ですが―聞こえてきます。
 こうした要望に応えて、日本人もOKとするなら「おもてなしID番号」の代わりに何が使われることになるでしょう。マイナンバーの入力をとなるかも知れません。もしそうなれば、マイナンバーと行動履歴が紐付けられることになるでしょう。

 それから蛇足ですが、マイナンバーカードと交通系ICカードは、ICカードの仕様が違う―前者はType-B、後者はFeliCa―ために、そもそも互換性がありません。

■もう一つ追加

 2016年8月31日付けの日経新聞に「グーグル決済、秋にも上陸 スマホ支払い」とする下記の記事(一部引用)が掲載されました。

 米グーグルは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と組み、今秋にも日本でスマートフォン(スマホ)を使った電子決済サービス「アンドロイドペイ」を始める。日本はIC交通乗車券「スイカ」や「楽天Edy(エディ)」などが普及するが、利用は国内に限られる。「世界仕様」のサービス上陸で、消費者は海外でも自分のスマホで買い物ができるようになる。

・・・

 スマホ決済を巡っては米アップルも「アップルペイ」と呼ぶ独自サービスを日本で始める準備を進めているもようだ。スマホの基本ソフト(OS)を握る世界2強が参入することで、国内勢との顧客の囲い込み競争は激しくなりそうだ。 

 政府の「観光ビジョン実現プログラム2016」は、スイカなどの交通系ICカードを利用するとしているわけですが、「世界仕様」のグーグルや、アップルに太刀打ちできるのでしょうか。訪日外国人に使ってもらえず、税金の無駄遣いに終わりそうです。

 というもののそもそも、記事によれば「グーグルはJR東日本やNTTドコモ、楽天、ジェーシービー(JCB)など他の電子マネー大手と、読み取り機などシステムへの相乗りを求めて協議を進めている」とありますから、政府だけが明後日の方向に向いているような気がします。

 

2016年5月 5日 (木)

国税庁がFAQを変更  マイナンバーの記入がない書類を受け取るのは「番号制度導入直後の混乱を回避する」ため

 2016年5月5日の「赤旗」に「マイナンバー提出強制 事業所が就業規則で 法律では拒否できる」との記事が掲載されました。

 記事の内容は「法律では拒否できるはずのマイナンバー(共通番号)提出を、就業規則で提出を強制する職場が続出しています。弁護士らから、法律から外れた運用の危険や民間に任せっぱなしにする政府の無責任を指摘する声があがって」いるというものです。

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 この記事に関連したことですが、国税庁のWebサイトにあるFAQ「従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか」に対する回答が書き換えられていることがわかりました。

 質問の回答のうち「個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません」は同じです。 しかし、その理由が異なっています。

 以前は「法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号を記載することはできません」となっていました。

 ところが、現在は「番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し」と書き換えられ、さらに「今回マイナンバー(個人番号)の提供を受けられなかった方に対して、引き続きマイナンバーの提供を求めていただきますようお願いします」とだめ押しをしています。

 「お知らせコーナー(最新のトピックスを更新しています)」に、「『番号制度概要に関するFAQ』を更新しました。(平成27年12月25日)」とありますから、おそらくこの時点で書き換えたのでしょう。

■「番号制度導入直後の混乱」が治まれば、番号記入のない書類は受取拒否か?

 国税庁の姿勢は明らかに変化しています。近い将来「番号制度導入直後の混乱」が治まったとして、記入していない申告書類等は受け取らないとしてくる可能性があると見て間違いないでしょう。

◆以前(おそらく2015年12月25日まで)  ※ 以下、赤字強調は引用者

ホーム>社会保障・税番号制度について>社会保障・税番号制度FAQ>国税分野におけるFAQ>国税分野におけるFAQ
 https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuzeikankei.htm#a2-10

Q2‐10 従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか。

(答)
 法定調書作成などに際し、個人番号の提供を受けられない場合でも、安易に個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
 それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
 経過等の記録がなければ、個人番号の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
 なお、法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号を記載することはできませんので、個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。

◆現在

ホーム>社会保障・税番号制度<マイナンバー>について>社会保障・税番号制度<マイナンバー>FAQ>法定調書に関するFAQ>法定調書に関するFAQ
 http://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/houteichosho_qa.htm#a12

Q1-2 従業員や講演料等の支払先等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合、どのように対応すればよいですか。

(答)
 法定調書の作成などに際し、従業員等からマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合でも、安易に法定調書等にマイナンバー(個人番号)を記載しないで税務署等に書類を提出せず、従業員等に対してマイナンバー(個人番号)の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
 それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
経過等の記録がなければ、マイナンバー(個人番号)の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
 なお、税務署では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも書類を収受することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることから、今後の法定調書の作成などのために、今回マイナンバー(個人番号)の提供を受けられなかった方に対して、引き続きマイナンバーの提供を求めていただきますようお願いします。

■番号記載ない確定申告書の受け取りも、理由を「導入直後の混乱を避けるため」に書き換え

 なお、こうした「番号記載のない書類でも受け取る理由」は、確定申告書類等の受け取りについてのFAQでも変更されています。

◆以前(おそらく2015年12月25日まで)

ホーム>社会保障・税番号制度について>社会保障・税番号制度FAQ>国税分野におけるFAQ>国税分野におけるFAQ 
 https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuzeikankei.htm#a2-3-2

Q2-3-2 申告書等に個人番号・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。
(答)
 申告書や法定調書等の記載対象となっている方全てが個人番号・法人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号・法人番号を記載することはできませんので、個人番号・法人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。

◆現在

ホーム>社会保障・税番号制度<マイナンバー>について>社会保障・税番号制度<マイナンバー>FAQ>番号制度概要に関するFAQ>番号制度概要に関するFAQ
 https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/gaiyou_qa.htm#a23-2

Q2-3-2 申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。
(答)
 税務署等では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出してください。

■「番号を書きたくない人への強制は許さない」は大事です。しかし、根本的な解決はマイナンバー制度の中止・廃止しかありません

 このように国税庁の姿勢は明らかに変化しています。近い将来「番号制度導入直後の混乱」が治まったとして、記入していない申告書類等は受け取らないとしてくる可能性があります。

 「番号を書いていない申告書も受け取れ」と政府・国税庁に迫ることは確かに大事です。しかし、残念ながら「番号を書かなかった」からといって国民・住民の個人情報がマイナンバーによって名寄せされ、プロファイリングされ、選別されることは避けられません。
 国税庁が、申告書類等に書かれた住所や氏名から住基ネットなどを使って、本人のマイナンバーを自ら調べることは法的には問題はなく、遅くとも2017年にはコンピューターネットワークを使って可能となります。書いてなくても勝手に調べて書くのです。もちろんこれは「人海戦術」ではなく、コンピューターを使って自動的にです。

 残念なことですが、申告書類等にマイナンバーを書かないことだけでは、根本的な解決とはならないのです。マイナンバー制度の中止・反対こそが唯一の解決策です。

2016年4月26日 (火)

健康保険証カード化 ―コロコロと変わった厚労省の方針 2次元コードから健康ITカード、さらに社会保障カードへ

 「マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした」の続きです。
 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

 ※ 赤字強調は筆者

■厚労省は、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を開始し、2007年度中に結論を出すとしていた

 「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」を2006年9月に公表するなど健康保険の資格確認のオンライン化を検討していた厚生労働省であったが、2007年3月16日に開催された経済財政諮問会議において、柳澤伯夫厚生労働大臣は、俄に「健康ITカード(仮称)の導入構想」を提案した。

 柳澤大臣が配付した説明資料「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニューについて」(PDF)の1頁(下図)には、「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニュー」の1つとして「利便性等の向上」があげられ、その中に「『健康ITカード(仮称)』の導入に向けた検討  早急に検討に着手し、平成19年度中に結論」を出すとあった。

487
 さらに説明資料の3頁には「『健康ITカード(仮称)』の導入構想について」と表題が付けられた図(下図)が掲載されていた。

488

◆カード交付は、希望者を対象にスタート。社会保障番号(仮称)の導入に向けた検討も行うとしていた

 「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニューについて」(PDF)は、「新たな取組み」として「健康保険証を全て個人カード化」し、「健康ITカード(仮称)」の交付を「希望者を対象にスタート」するとしていた。
 また「レセプトオンライン化に伴う医療機関、審査支払機関、保険者間の情報ネットワーク化(原則全てがレセプトオンライン化される平成23年度当初までには普及)」し、「データを蓄積するサーバーの設置」とともに「社会保障番号(仮称)の導入に向けた検討 ※希望者には、健康保険証に番号登載」を行うとある。

 これらにより、「国民個人ができるようになること ―将来像」として、「自らの特定健診(平成20年度から実施の健診)の結果やレセプトの内容を閲覧し、出力できる」「診察の際に、自らの持病やアレルギー、投薬の状況、各種検査の結果等について、他院におけるものも含め、引き出せる」「高額療養費等の申請手続きの簡素化、申請漏れの防止ができる」としている。

 一方、「健康ITカード(仮称)」は、「被保険者資格の確認や保険料の未納対策にも用いることができる」ようにもなるとしている。これは、「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」が「2次元コード(QRコード)が必要かつ十分な機能を有し、ICチップはオーバースペックである」としつつも、「医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカードが導入されるのであれば、このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる」を踏まえたものであろう。

 また、「健康ITカード(仮称)」の導入に向け、2007年度中に、「システムの基本構想づくり」「個人情報の保護」「社会保障番号(仮称)の付番方法、カードへの登載方法、費用分担」「費用対効果」を検討するとしている。また「※ 社会保障番号(仮称)は、介護や年金における手続等、社会保障全般に活用できることも視野に入れて検討」としている。

 

■経済財政諮問会議が取りまとめた「成長力加速プログラム」に健康ITカード(仮称)が盛り込まれる

 経済財政諮問会議は、2007年4月25日、「生産性の上昇を図る上で足枷となっている重要な改革課題を明らかにし、その対応策の基本構想を示すもの」として「成長力加速プログラ]ム ~ 生産性5割増を目指して ~」を取りまとめた。

 成長力加速プログラムは、「『サービス革新戦略』を実行することで、経済効率と質を引き上げ、国際的にも見劣りのしない生産性水準にキャッチアップする」ために、「低生産性分野から高生産性分野へと労働・資本の円滑な移動を促進し、資源の効率的配分を進める」ことを目的に、「ITの本格的活用を通じて、ネットワーク化や組織革新等を進め、新成長基盤の効率化を図る」ことを「戦略の柱」の1つとしている。
 そして、その一環として「医療のIT化を進めるため、『健康ITカード(仮称)』の導入に向け、システムの基本構想等について検討を行い、年内を目途に結論を得る」とした。

 

■厚労省、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」を2007年5月15日の経済財政諮問会議に提出

 厚生労働省は、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(PDF)を2007年5月15日に開催された経済財政諮問会議に説明資料として提出した。

 プログラムは、2007年3月16日の会議で示した先の配付資料を踏襲するもので、20項目あげられた「具体的取組」の1つとして、「健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討」があげられ、「平成19年中を目途に、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を行い、結論」を出すとしている。

 また、同時に示されたプログラムの参考資料(PDF)の7頁には「社会保障全体を視野に入れたシステムの基本構想づくり」「個人情報の保護」「社会保障番号(仮称)の付番方法、カードへの登載方法、費用分担」「費用対効果」が検討事項としてあげられている。

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◆日本医師会は、健康ITカード(仮称)について「健康情報は究極の個人情報である点を踏まえ、事前の十分な国民的議論が必要である」と見解を表明

 「骨太の方針2007」が閣議決定されるのを前に、2007年6月6日の日本医師会の定例記者会見で中川俊男常任理事は、行き過ぎた歳出改革の是正を求めるとともに、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」の問題点を指摘した。
 同プログラムに関する記者会見資料(PDF)の健康ITカード(仮称)に関する部分は次の通り。

健康ITカード(仮称)

平成19年度中を目途に健康ITカード(仮称)の導入に向けた結論」

健康情報は究極の個人情報である点を踏まえ、事前の十分な国民的議論が必要である。

-プライバシーの問題

・国民は、相手が医療・介護の従事者であっても、自らの健康情報を全て知られたくはない。
・ID窃盗などによる危険性はクレジットカードなどの金銭のみの損失とは比較にならない。
・年金・医療・介護・雇用の制度をまたがる「健康ITカード」は、多くの民間人による操作が想定され、さらに情報漏えいの危険性が懸念される。

-財源の問題

・カードの発行費用。
・カード情報と既存病院システムとの連携コスト。
・患者が自分の受けた診療内容を確認するには、個人が特定できる。生涯1患者1カルテの巨大なデータベースが必要。

 

■「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行う ―骨太の方針2007

 2007年6月19日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007(骨太の方針2007)」(PDF)は、「1.歳出・歳入一体改革の実現」の項の「(2)社会保障改革」において2008年度から2012年度までの5年間を基本とする「『医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム』等を推進する」としている。

(2)社会保障改革

① 医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム

 医療・介護サービスについて、質の維持向上を図りつつ、効率化等により供給コストの低減を図る。このため、以下の取組を盛り込んだ平成20年度から24年度までの5年間を基本とする「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」等を推進する。

生活習慣病対策・介護予防の推進、平均在院日数の短縮、在宅医療・在宅介護の推進と住宅政策との連携、診療所と病院の役割の明確化、EBMの推進と医療の標準化、重複・不要検査の是正、後発医薬品の使用促進、不正な保険医療機関や介護サービス事業者等への指導・監査の強化、医師・看護師等の医療従事者等の役割分担の見直し、診療報酬・介護報酬の見直し、包括払いの促進、IT化の推進(原則レセプト完全オンライン化、健康ITカード(仮称)導入に向けた検討)、地域医療提供体制の整備、医療情報の提供、医療・介護の安全体制の確保等

② 同プログラムの強化と検証

 同プログラムに定めた目標の実現に向けて、実効性のある改革の取組を進め、平成20年度予算から順次反映させる。また、厚生労働省は、同プログラムの実施状況を検証した上で、経済財政諮問会議に適宜報告する。これに基づき、必要に応じてプログラムの見直しを行い、PDCAサイクルを貫徹する。

③ 公立病院改革

 ・・・引用者略・・・

 なお、上記のプログラムを踏まえ、平成19年内に「基本方針2006」を達成するための道筋を示す。

 特に、健康ITカード(仮称)については、「4.質の高い社会保障サービスの構築」の項の「(3)社会保障の情報化の推進」において、平成19年内を目途に結論を得るとしている。

 個人が自分の健康情報、年金や医療等の給付と負担等の情報を簡単にオンライン等で入手・管理できるとともに、社会保障に関する手続を安全かつ簡単に行うことができる仕組みの構築を目指す。このため、「電子私書箱」(仮称)を検討し、平成22年頃のサービス開始を目指すとともに、「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行い、平成19年内を目途に結論を得る。これらについては、密接な連携をとって一体的な推進を図ることとし、平成19年度内に、個人情報の保護等に留意しつつ、全体的な基本構想を作成する。

◆「骨太の方針2007」の閣議決定により、健康保険証に二次元コード(QRコード)を装着する計画は中止に

 厚生労働省保険局総務課は、2007年7月9日付で「被保険者証の券面に二次元コードを装着することを目的とした省令改正の中止について」(PDF)と題する文書を関係機関に発した。

 「平成20年4月より健康保険及び国民健康保険の被保険者証にQRコードを装着することを予定」していたが、「『経済財政改革の基本方針2007』(骨太の方針)により、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を行うことが閣議決定されるなど諸般の状況を踏まえ、省令改正を中止する」こととしたとある。

【解説】

 「マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした」にも書きましたが、厚生労働省は、健康保険の資格確認のオンライン化に向け「医療保険被保険者資格確認検討会」にて検討を2005年8月から行ってきました。
 2006年9月には、2次元コード(QRコード)をカード化した健康保険証の券面に装着するなどとする「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」を公表しました。

 その一方、上記にあるように、「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)」の一部として、医療のIT化を進め、より高度なサービスを提供するための「健康ITカード(仮称)」の導入も検討していました。
 このカードを使えば、特定健診結果やレセプト内容の閲覧や、診察の際に持病やアレルギー、投薬の状況、各種検査の結果等について引き出せ、高額療養費等の申請手続きの簡素化、申請漏れの防止もできるなどとしています。

 また、「健康ITカード(仮称)」は、経済財政諮問会議において「成長基盤の効率化」の文脈で議論されていた点にも注意が必要でしょう。サービス向上だけが目的ではなかったのです。

 もちろん「健康ITカード(仮称)」実現されなかったわけですが、現在のマイナンバーカードよりも「多機能」かつ「便利」なものとして構想されていたようです。
 これらの文書には書いてありませんが、多機能化を図ることから「健康ITカード(仮称)」にはICカードが使われることは前提となっていたと思われます。
 また、「健康ITカード(仮称)」は、保険料の未納対策とともに、被保険者資格の確認にも用いることも想定されていましたから、厚生労働省が2007年7月9日に発した文書にあるように、2次元コード(QRコード)の利用の検討は中止されることとなったのです。

 なお、「健康ITカード(仮称)」の名称は、「骨太の方針2007」以降、政府のサイトには見あたらないようです。翌年の「骨太の方針2008」では「社会保障カード(仮称)の導入」となっています。

 このように健康保険証のカード化を巡る厚労省の方針は、2年程の極めて短い間にもかかわらず、「カード化し2次元コードを貼る。ICカードはオーバースペック」から「(ICカードを前提とした)健康ITカード(仮称)」、さらには「社会保障カード(仮称)」と、コロコロと変わっていったのです。無責任というか、時間と金の無駄というか・・・検討会などで交わされた議論は、一体全体何だったのでしょう。

2016年4月18日 (月)

マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした

 「『マイナンバーカードを健康保険証に』は、政府・与党連絡協議会が2007年に構想した社会保障カードが出発点」の続きです。

 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

 ※ 赤字強調は筆者

■厚生労働省「医療保険被保険者資格確認検討会」による「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」

 資格過誤によるレセプト返戻の解消方法等について検討してきた厚生労働省「医療保険被保険者資格確認検討会」(2005年8月に設置)が、2006年9月に「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」を公表(「表紙、目次、1~8ページ」(PDF)、「別添1~7、メンバー一覧」(PDF))

 資格過誤によるレセプト返戻を解消していくためには、

 被保険者証の記載内容が医療機関・薬局のレセプト作成用のコンピュータに自動的に転記される仕組みを導入すること(以下「被保険者証記載内容の自動転記化」という。)」とともに、「医療機関・薬局の窓口において患者が被保険者(又は被扶養者)として保険者のリストに登録されているかどうかをオンラインで照会できる仕組みを導入すること(以下「被保険者登録状況のオンライン照会」という。)が解決策となりうる。

としている。

◆被保険者証記載内容の自動転記化

 被保険者証記載内容の自動転記化については、

① まず、各保険者において、
・被保険者証を個人カード化し、
・その個人カードの券面に、被保険者証の記載事項の一部をコンピュータに簡便に読み取れるように加工したものを共通の仕様により装着する。

② ①を前提に、医療機関・薬局においては、個人カードに共通の仕様により装着された情報(被保険者証の記載事項の一部)を入力機器で読み取り、自動的にレセプト作成用のコンピュータ上の画面に転記する。
※ 被保険者証記載内容の自動転記化が有効に機能し、普及していくためには、被保険者証の上記情報の装着の普及が不可欠の前提条件となる。

 情報の装着の方式については、

 費用や取扱いの簡便さを比較すると、2次元コード(QRコード)が最も安価であることに加え、券面の印刷により装着ができるなど、取扱いが容易である。小規模の保険者を含めて、幅広くカード-の情報の装着を普及させていくためには、2次元コード(QRコード)が優れている。

としている。

 一方、ICカード化については、

 「IT新改革戦略」を踏まえ、医療・介護・年金等の公共分野において安全で迅速かつ確実なサービスの提供を推進するため、導入のあり方等について平成19年夏までに検討を行い、結論を得ることとされており、厚生労働省等において検討が始まったところである。今回の資格過誤によるレセプト返戻の解消対策だけを考えると、2次元コード(QRコード)が必要かつ十分な機能を有し、ICチップはオーバースペックであるが、医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカードが導入されるのであれば、このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる

とした。

◆被保険者登録状況のオンライン照会

 被保険者登録状況のオンライン照会については、

① 利用を希望する医療機関・薬局の照会用コンピュータと、各保険者が自ら又は委託により管理する被保険者の登録状況に関する照会対応用データサーバとをオンラインで結ぶ。

② 保険者は、照会対応用データを定期的(例えば1日1回)に更新し、サーバに登録する。

③ 医療機関・薬局は、患者の受診時に、随時、被保険者証(個人カード)に装着された情報を入力機器で照会用コンピュータに読み取って、アクセスキー情報を送信しオンラインで照会する。

④ 医療機関・薬局は、即時に、保険者における被保険者としての登録の有無等について、オンラインで回答を受ける。

といった仕組みを提案している。

 また、「この仕組みによって被保険者としての資格の有無そのものが確認できるのではなく、確認できるのは、あくまで直近時点での保険者における被保険者としての登録の有無のみであることに十分留意する必要がある」、「登録『無し』と回答があった患者が必ずしも資格喪失者であるとは限らず、窓口での事情確認等を行う必要がある。また、登録「有り」と回答があった場合でも、実際にはタイムラグ等により保険者がレセプトを受け取った時点での資格確認を行った段階で、資格無しと判断され、レセプトが返戻されることはありうる」とのオンライン資格確認の限界性も示している。

【解説】

 レセプトの返戻とは、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金、及び、国民保険団体連合会)に送ったレセプトが、記載内容に不備があるなどの理由により、医療機関に返戻されることです。
 その理由は様々ですが、「医療保険被保険者資格確認検討会」の資料などによれば、「資格関係誤り」を理由とする返戻は基金分(平成16年度)が約631万件(全レセプトの約0.789%)、国保分(平成15年度)が約246万件(同じく約0.456%)となっています。

 「資格関係誤り」の内訳を見ると、基金分(平成16年度)において最も多いのは「資格喪失後の受診(35.3%)」で、次が「記号・番号の誤り(19.6%)」となっています。資格喪失後の受診は、退職等により既に被保険者資格が喪失し、無効となっている健康保険証を医療機関に示し、診察を受けることです。医療機関は、審査支払機関に送ったレセプトが返戻されるまで、健康保険証が無効であることを知る術はありません。一方、記号・番号の誤りは、健康保険証からカルテやレセプトへの転記が、目視による手作業で行われている限りなくすことはできません。

 検討会は、インターネットを活用した「医療機関・保険薬局における受診時資格確認システム」を構築することで、こうした資格関係誤りのレセプトの縮減を図ろうというものでした。

 資格過誤によるレセプト返戻の解消対策だけであれば、2次元コード(QRコード)で必要かつ十分であり、ICチップはオーバースペックであるとしているところが面白いですね。
 もっとも「医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカード」、要するに後の「社会保障カード」のようなものが導入されるのであれば、「このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる」としています。

 なお、「取りまとめ」が指摘しているオンライン資格確認の限界性は、現在検討されているマイナンバーカードを使った資格確認においても簡単には克服されるそうにはありません。

 下記の図は、「取りまとめ」に添付されている「概要」です。

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 この「健康保険の資格確認のオンライン化構想」による2次元コード(QRコード)を付けたカードの計画はもちろん中止となりました。では、その後は社会保障カードかというと、そうではありません。
 厚生労働省は「健康ITカード(仮称)」の検討を2007年に行っていたのです。

2016年4月17日 (日)

「マイナンバーカードを健康保険証に」は、政府・与党連絡協議会が2007年に構想した社会保障カードが出発点

 マイナンバーカードに健康保険証としての機能を載せる話がいよいよ現実味を帯びていますが、こうした話の源流は「社会保障カード」構想にあります。

 ※マイナンバーカード 健康保険証の機能を載せることを前提にデザインされていた

 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

■健康保険証にも使える社会保障カードを提案した政府・与党連絡協議会

 消えた年記録問題を受けて、政府と与党は、2007年7月5日に「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について」(PDF) http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/kanshi/pdf/070725_1-04.pdf を取りまとめた。

 「Ⅲ 新たな年金記録管理システムの構築」には次のような記述がある(赤字強調は引用者)。

 「今後、年金の記録を適正かつ効率的に管理するとともに、常にその都度国民が容易にご自身の記録を確認でき、年金の支給漏れにつながらないようにするため」として、「銀行通帳のような方式ではなく、個人情報を保護する観点から記載内容が他人に見られないよう十分なセキュリティ確保を行った上で、1人1枚の『社会保障カード』(仮称)を2011年度中を目途に導入するとした。

 また、「このカードは年金手帳だけでなく、健康保険証、更には介護保険証の役割を果たす。さらに、お年寄りなどご本人の希望があった場合には、写真を添付し身分証明書としてお使いいただけるものである。年金の記録については、窓口における年金記録の確認はもとより、自宅においても常時、安全かつ迅速に確認できるようになる。また、このカードは、基礎年金番号の重複付番の防止にも役立つものである」としている。

 【解説】

 当時の政府は第1次安倍内閣、与党は自民党、公明党。
 社会保障カードの目的は、年金記録を国民自ら確認させるためのもの。間違いを探すのも自己責任。
 なお、この文書には、2007年の公表当時、「社会保障カード(仮称)構想」との表題が付けられた「参考資料」などが添付されていましたが、現在、ネット上には見あたらないようです。仕方ありませんので、手元にあったものを画像ファイル(下図)として掲載しておきます。現在のマイナンバーカードとそっくりですね。
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 社会保障カードは、その後、2007年9月27日に厚生労働省に設置された「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」で議論されることとなったのですが、健康保険証をカード化する話自体は、この政府・与党連絡協議会において突然浮上したものではありません。
 厚生労働省は、連絡協議会前から健康保険証をカード化する検討を行っていました。

 続き → マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした

2016年4月10日 (日)

パナマ文書でタックスヘイブンが話題になっておりますが、国税庁も麻生財務相も、マイナンバーによる海外資産・取引情報の把握には限界があると申されております

タックスヘイブンとマイナンバーの関係については、拙著『マイナンバーはこんなに恐い!』でも言及しています。

473

 タックスヘイブン(租税回避地)に関する「パナマ文書」が話題になっていますが、よもや「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)があれば、こんな租税回避という名の不正はできないぞ」と勘違いされている方はいらっしゃらないとは思いますが、念のため、国税庁の見解を以下載せておきます。

◆個人番号を利用しても「海外資産・取引情報の把握には限界」と国税庁ウェプサイト

国税庁「社会保障・税番号制度の概要について」   ※ 赤字強調は引用者

社会保障・税番号制度の概要

(1) -引用者略-

(2) 国税分野での利活用

 国税分野においては、確定申告書、法定調書等の税務関係書類に個人番号・法人番号が記載されることから、法定調書の名寄せや申告書との突合が、個人番号・法人番号を用いて、より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上し、適正・公平な課税に資するものと考えています。
 他方で、個人番号・法人番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があり、個人番号・法人番号が記載された法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。

 大事なことなので、もう一度。

「個人番号・法人番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があり・・・」

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◆国税庁レポートは「海外資産、取引の把握は困難であることに留意せよ」とありがたいお言葉

 ついでにもう一つ。
国税庁レポート 2015」(PDF)49頁 ※ 赤字強調は引用者

Ⅴ 納税者利便の向上と行政効率化のための取組

1 社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の導入

(3)個人番号及び法人番号の利活用機関としての対応

 -引用者略-

~ 所得把握の適正化・効率化 ~

 国税分野では、申告書、法定調書等の書類に番号が記載されることから、法定調書の名寄せや申告書との突合が、より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上するものと考えています。もとより、事業所得や海外資産・取引情報をはじめ、法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、番号を利用しても全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。

 大事なことなので、もう一度。

「事業所得や海外資産・取引情報をはじめ、法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、番号を利用しても全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。」

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◆海外資産・取引の把握、最初からマイナンバーでは無理とわかっていた

 もちろんこうした「マイナンバーでもタックスヘイブンはどないもでけへんわ」という「見解」は、国税庁だけのものではありません。マイナンバー制度創設のもとになった「社会保障・税番号大綱」(PDF)にも書かれています。 18~19頁  ※ 赤字強調は引用者

5.番号制度の可能性と限界・留意点

(1)番号制度の可能性

 -引用者略-

(2)番号制度の限界

 一方、そのような制度改革と併せても、全てが完全に実現されるわけではない。例えば、全ての取引や所得を把握し不正申告や不正受給をゼロにすることなどは非現実的であり、また、「番号」を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある。
 しかし、これら全てが完全には実現できないにしても、番号制度の導入と制度改革による一定の改善には大きな意義がある。

 大事なことなので、もう一度。

「『番号』を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある。」

 要するに「マイナンバーでもタックスヘイブンはどないもできんわ。そんなことぐらいお前らわかるやろ」ということですね。

 「社会保障・税番号大綱」(PDF)は、2011年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部によって決定されています。民主党政権(菅内閣)の時代です。
 では政権が自民党に代わった際に、この「見解」が否定されたのかというと、冒頭で示したように国税庁のウェプサイトに同様の記述がいまもありますから、否定されたわけではありませんね。継承されていると見た方が良いでしょう。

◆安倍政権も、マイナンバーによる「海外資産、取引の把握には限界」と認めている

 そこで国会の議事録を政権交代後(2012年12月以降)に限って検索してみると。
 2013年4月3日の衆議院内閣委員会での村上史好議員(生活の党)の質問と政府側の答弁から一部引用します。
 ※ 赤字強調は引用者

○村上(史)委員 ・・・(本会議の)答弁で、社会保障・税番号制度は、より公平な社会保障制度や税制の基盤となると答弁される一方で、社会保障・税番号大綱には、番号制度を導入しても、全ての取引や所得を把握し、不正申告あるいは不正受給をゼロにすることなどは非現実的である、また、番号を利用しても、事業所得や海外資産、取引の情報の把握には限界があると明記されております。・・・政府として、この番号制度の限界に対する対応はどのように考えておられるのか、お尋ねします。

○甘利国務大臣 完璧に全ての所得を捕捉するということになりますと、いろいろとコストも膨大になるでしょうし、国民がそんなところまでという支持をするかどうか。・・・

・・・

○村上(史)委員 ということは、先ほど申し上げましたけれども、海外資産等の把握は今後ともやっていく、いずれやっていくということでよろしいんでしょうか。

○向井政府参考人 海外資産の把握につきましては、物事の性質上、なかなか難しい面もございます。・・・

 政権が自民党に交代しても、「出来ないものは出来ない」ということのようです。

 またまた、ついでにもう一つ。

 2013年5月23日の参議院内閣委員会 藤本祐司議員(民主党・新緑風会)の質問に対する政府側の答弁から一部引用します。  ※ 赤字強調は引用者

○大臣政務官(伊東良孝君)・・・所得の把握の正確性が向上し、適正、公正な課税に資するものということになるわけでございます。
 しかしながら、他方で、この番号を利用しましても、事業所得やあるいは海外資産、取引情報等々に関しましてはおのずと限界がある話でございまして、番号が記載された法定調書だけでは把握、確認が困難な取引などもたくさんあるわけでございます。・・・

◆麻生大臣も「海外での所得の把握には一定の限界」と国会答弁

 さらに麻生太郎財務大臣も、2015年5月21日の参議院財政金融委員会にて、尾立源幸議員(民主党・新緑風会)の質問に対して  ※ 赤字強調は引用者

○国務大臣(麻生太郎君) ・・・マイナンバー導入後も、例えばいわゆる国外、海外での所得とか、またマイナンバーが付されていない預貯金口座というものの存在など、所得、資産というものの把握にこれは一定の限界は残るものというのはもう確かだと思いますけれども・・・

 麻生財務相のお考えは「マイナンバー入れても、海外の所得なんかわかるわけないでしょ」ということですね。
 タックスヘイブンに資産を預けている人は、マイナンバーは関係なしなのです。良かったですね。だから大金持ちのみなさんはマイナンバーに反対しないのでしょう。

 さすがにこれは考えすぎだとは思いますが、ひょっとすると国税庁や政府が「マイナンバーで海外資産の把握は困難」と繰り返しアナウンスして来たのは、大金持ちのみなさんが自分たちの資産も把握されるのかと「誤解」してマイナンバー制度に反対するのを防ぐためなのかも知れません。

 ところで、国税庁が言うマイナンバーで「より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上し、適正・公平な課税に資するものと考えています」の具体的中身はなんでしょう。長くなってしまいましたので、この件については、またあらためて後日・・・

 なお、パナマ文書で首相が辞任したアイスランドにもマイナンバーと同様の番号制度があります。しかし、アイスランドの国税当局は首相の海外資産について把握できていなかったようです。

2016年3月30日 (水)

マイナンバーカードを使い、がん患者を対象に診療情報やMRIなどの検査結果を病院間で共有する連携サービス開始へ -前橋市と群馬大学など

 「読売新聞」のウェブサイトに「CT検査画像も…マイナンバーで患者データ共有」と題した記事(2016年3月29日付け)が掲載されています。

 見出しは「マイナンバーで」となっていますが、記事を読めば、マイナンバー(個人番号)を利用するのではなく、マイナンバーカードに収められている公的個人認証の電子証明書を利用して、医師や薬剤師が患者の検査画像データなどを専用端末を通じて共有するシステムを実現するものだとわかります。

 前橋市と群馬大学(前橋市)などは近く、県内の医療機関や薬局、老人保健施設と連携し、共通番号制度のマイナンバーカードを使って、医師や薬剤師が患者の検査画像データなどを専用端末を通じて共有するシステムをスタートさせる。

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 マイナンバーカードには、所持者本人であることを証明する電子証明書も組み込まれているため、システムはこの本人証明機能を活用する。

 以下、この記事に関する関連情報をまとめてみました。

◆「ICカードでがん診療情報共有 前橋市と群大病院」上毛新聞 、2016年1月13日付け

 「上毛新聞」の方が「読売新聞」よりも、事業内容が詳しく書かれています。

 前橋市と群馬大医学部附属病院(前橋市)は2月、がん患者を対象に、ICカードを使って診療情報やMRIなどの検査結果を病院間で共有する連携サービスを始める。情報を画像として共通のサーバーに保存し、医師間で共有する仕組み。大病院で手術を受けた後、地域のかかりつけ医に移行する場合も再検査などの手間が省け、より効率的な医療を受けられるようになる。ICカードで医療データを共有する試みは群馬県内で初めて。

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 サービスでは、検査結果や投薬の履歴といった診療情報を画像データとして、専用ネットワークに接続されたサーバーに保存する。ICカードを通じて医師や看護師、薬剤師など閲覧権限を持つ限られた人のみが利用できる仕組みだ。

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 マイナンバー制度の個人番号カード導入を見据えた地域医療の効率化に向け、前橋市はICカード1枚で医療・健康情報を管理する実証実験に取り組んできた。今回の診療情報連携も、市が調整し実現。国で進められている個人番号カードと健康保険証の一体化議論の決着を待って診療情報連携も導入する方針だ。

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 市は今月から個人番号カードを使い、子どもの健診や予防接種履歴などをパソコンやスマートフォンで管理できる母子健康情報サービスも開始する。

 記事には、「検査結果や投薬の履歴といった診療情報を画像データとして、専用ネットワークに接続されたサーバーに保存する。ICカードを通じて医師や看護師、薬剤師など閲覧権限を持つ限られた人のみが利用できる仕組みだ」とあります。
 閲覧権限があるか否かをICカードでチェックするようですが、このICカードがマイナンバーカードでなければならない理由が分かりません。
 公的個人認証の電子証明証を使うのを前提にしなければ、マイナンバーカードを利用する必要はありません。

 マイナンバーカードは、クレジットカードやキャッシュカードの機能を持たせ、さらに健康保険証にすることが政府によって計画されています。そうなれば、医師や看護師、薬剤師なども、日常的に持ち歩き、買い物や、ATM、自分自身の受診の際にも使うことになります。極めてセンシティブな診療情報へのアクセスのための鍵となる大事なカード、こんな扱いで大丈夫なのでしょうか。患者は納得するのでしょうか。
 マイナンバーカードではなく、当該サービス専用のカードを作り、医療機関で厳重に管理した方が、遙かに安全に出来るだろうし、患者もその方が安心できるのではないでしょうか。 

◆「公的個人認証サービス、日本デジタル配信など3社を初の総務大臣認定」ITPro、2016年2月12日付け

 公的個人認証を利用できる民間事業者として総務省が3組織を認定したという内容の記事。

 総務省は2016年2月12日、マイナンバーカード(個人番号カード)に搭載した公的個人認証サービスの初の民間企業の利用者として、日本デジタル配信など3社を大臣認定したと発表した。3社とも公的個人認証サービスの利用に必要となる設備を整備・運用し、クラウドサービスとして提供する「プラットフォーム事業者」となる。

 認定されたのは、日本デジタル配信のほか、一般社団法人の「スマートテレビ連携・地域防災等対応システム普及高度化機構」、 「ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構」の3社。認定されると、署名検証者として電子署名などの検証や、電子証明書の有効性の確認ができる。企業がプラットフォーム事業者を活用すれば、個別に設備を用意する必要はない。マイナンバーは扱わない。

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 記事の末尾に、認定を受けた組織の1つである「ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構」は、「前橋市(群馬県)の医療機関の間で、病院で作成された画像データなどを別の病院・診療所の医師がマイナンバーカードを利用して閲覧できるデータ連携システムを試験運用するという」とあります。

ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構

 総務省から認定を受けた一般社団法人「ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構」のWebサイト。法人概要によると所在地は、群馬県前橋市。

◆総務省の報道資料「マイナンバーカード(電子証明書)を活用する公的個人認証サービスの利用を行う民間事業者として、初の大臣認定を実施」2016年2月12日付け

 本日、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成14年法律第153号)第17条第1項第6号に規定する総務大臣の認定を日本デジタル配信株式会社等3社に対し行いました。
 マイナンバーカードに格納された電子証明書等を活用する公的個人認証サービス【資料1】の利用は、従来、行政機関等に限られ、e-Taxによる確定申告等で利用されてきましたが、本年1月1日より、民間事業者にその利用が開放【資料2】され、民間事業者も大臣認定を受けることにより、利用が可能となったところです。当該3社が初の大臣認定となります。

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1.大臣認定を受ける3社について
 今回、大臣認定を受ける3社は以下のとおりです。

 (1) 日本デジタル配信株式会社

 (2) 一般社団法人 スマートテレビ連携・地域防災等対応システム普及高度化機構

 (3) 一般社団法人 ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構

 ※ 大臣認定を受ける3社の概要は別添PDF参照

資料1

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資料2

430

◆上記報道資料に添付されている事業者3者の概要資料(PDF)

 これによるとICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構は、記事にある患者データの共有だけでなく、デジタル母子健康手帳も行うようです。

ア 法人の概要

 マイナンバーカードを活用して、地域における母子保健、医療、福祉をはじめ、住民が日常的に利用する様々な情報を提供するためのシステム基盤を運営する業務を実施。

イ プラットフォーム事業の狙い(将来像)【資料6】

 マイナンバーカードを「デジタル母子健康手帳」や「地域の病院カード、医療機関間のデータ連携」など、様々なサービスに共通で使える多目的カードとして活用するためのシステム基盤を実現。

ウ 当面の事業【資料7】

 ①3月から、マイナンバーカードを活用して、パソコンやスマートフォンから母子健康情報を閲覧できるサービスを開始。このための基盤となるシステム(電子証明書の検証等)をクラウドを使って提供。

 ※同サービスを提供する市区町村の拡大を図る。

 ②前橋市(群馬県)の医療機関間におけるデータ連携を実現するシステムを運用。

 ※3月から標記システムの試験運用を開始。病院で作成された画像データ等を、別の病院・診療所の医師がマイナンバーカードを利用して閲覧することを可能とする(従来は、データ連携にあたり、CD等物理媒体が必要。)。

 ※同システムを利用する市区町村の拡大を図る。

資料6

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資料7

427

2016年2月21日 (日)

マイナンバーカードに、ポイントカードの機能を載せる“バカ”政策 (4)

1.仕事始め式で高市総務相が、来年春以降の実現を目指すと
2.ポイント機能の話は、政府の既定方針
3.総務省、2月12日にポイントカードとの一体化を図る検討会を開催
4.マイナンバーカードと公的個人認証に群がる大企業
5.マイキープラットフォームとは何?
6.検討の留意点、持ち歩く危険性には触れず
7.デメリットには全く触れない2つの配付資料
8.全国商店街振興組合連合会専務理事、消費税や軽減税率などへの対応に追われ、関心はほとんどがない
9.マイナンバーカードにこだわる不思議

7.デメリットには全く触れない2つの配付資料

 マイキープラットフォームによる地域活性化方策検討会(第1回)の配付資料にはどんなことが書かれていたのでしょう。

 まず「資料3-1 マイキープラットフォームによる自治体の業務刷新と地域活性化に関する提案(廣川構成員)」(PDF)を見てみましょう。
 地域情報化アドバイザーの肩書きで出席されている廣川聡美氏は、元横須賀市職員(退職時には副市長)のようです。
 提出された資料には、マイキープラットホームにより、ローカルなIDと共通IDを連携させることで何が変わるかや、効果、利用イメージなどが書かれていますが、セキュリティなどに関わる問題や、カード1枚に集約することによるデメリットには全く触れていません。

 共通IDによる行動履歴の収集・活用などについても書かれていません。
 しかし、「6 高度利用・広域利用のイメージ」(PDF)の「健康マイレージ全国選手権」を見ると、「全国ふるさとクラウド」には「利用者が希望すると、利用者の嗜好や興味に合うふるさとを紹介。また、文化、景観、物産やイベントなどのを(ママ)情報をプッシュ型で提供する」とありますし、「高齢者の健康づくりのための健康マイレージの全国版ランキングを、テレビ局等の支援を受けて実施する」とありますから、共通IDを使って個人情報を名寄せし、プロファイリング等に活用する気は充分あるようです。

 次に、「資料3-2 マイキープラットフォームによる地域商店街活性化に関するご提案(岡田構成員)」(PDF)を見ます。
 岡田祐子氏は、DNP(大日本印刷)の元社員で、現在、同社のグループに属するポイントサービスに関するコンサルタント会社の社長です。
 提出された資料では、地域商店街ポイントカードの現状分析、問題点をあげ、その解決策としてマイナンバーカード利活用などを提案しています。「マイナンバーカードを地域商店街ポイントカードの共通デバイス」にすると、商店街にとっては「カード発行代不要」、「管理システム費用もダウン」で「絶大なコスト効果」があり(PDF)、地域住民にとっては「複数持ち歩く必要がなく便利」、「地元商店街ポイントカードの持ち忘れがなくなる」ことで「マイナンバーカード1枚で必要なポイントを利用可能」と利点(PDF)をあげています。

 また、面白いことに、岡田氏は、資料の中で、マイナンバーカードをポイントカードにすることにより得られるであろう購買履歴等を活用することについては、「データ活用」(PDF)とあるだけで、その具体的な中身については一切触れていません。購買履歴の活用は、顧客の囲い込みとともに、ポイントカードの最大の目的であるにもかかわらずです。不思議ですね。触れるとマズイとでも思っているのでしょうか。

 その一方、廣川氏と同様に、個人番号が書かれたカードを日常的に持ち歩くことの危険性などについては一切触れていません。この問題をクリアしない限り、商店街も住民も、マイナンバーカードをポイントカードにすることに賛成はしないでしょう。

8.全国商店街振興組合連合会専務理事、消費税や軽減税率などへの対応に追われ、関心はほとんどがない

 では、これらの配付資料によるプレゼンテーションを受けて、どのような議論が行われたのでしょう。
 残念ながら、2月22日時点では、まだ議事概要が公開されておらず、その中味は分かりませんが、日経BP社の「ITpro」の2015年2月15日付けの記事「マイナンバーカードをポイントカードに 商店街から意見相次ぐ」が議論の様子を「課題が相次いで指摘された」として次の様に伝えています。

 吉田康夫・全国商店街振興組合連合会専務理事は、商店街は消費税や軽減税率などへの対応に追われてマイキープラットフォームにほとんど関心がないとして、「自分たちにどういうメリットがあるか分かりやすく説明される必要がある」と述べた。また、消費者にはマイナンバーの漏洩などを恐れてカードを持ち歩くことに不安もあるとして、「カードの有効性や魅力を消費者側にきちんと伝えることが大事」(吉田専務理事)と語った。さらに、広域に使えるポイントカードでは、ポイント分の経費を負担する商店街にとって顧客が再び戻らなければ割に合わない恐れもあると指摘した。

 「商店街は消費税や軽減税率などへの対応に追われてマイキープラットフォームにほとんど関心がない」は、痛烈な意見ですね。総務省は、商店街が抱えている問題を何も分かっていないまま、こんな馬鹿げた構想を進めようとしているようです。

 また、小尾高史・東京工業大学准教授は、マイキーIDについて「連携用IDなのか、自治体が広域で使ってよいものか明確にしないと、プライバシーを心配する方も必ず出てくる可能性がある」とするとともに、カードの紛失などがマイナンバーのシステム運用に影響を及ばさないようにする必要もあるとも指摘されたようです。

 ところで、記事の末尾に出て来る猿渡知之・総務省大臣官房審議官は、総務省自治行政局自治政策課の情報政策企画官として公的個人認証サービスの立ち上げに関わり、その後、京都府に出向し総務部長を務め、後に副知事(2006年5月~2009年4月)になった方です。

9.マイナンバーカードにこだわる不思議

 さて、このマイキープラットフォームによる地域活性化方策検討会検討会は、マイナンバーカードを利用することを当然として議論していますが、公的個人認証の電子証明書は、マイナンバーカードでしか機能しないのでしょうか。配付資料「マイナンバーカードのマイキー部分について」(PDF)の1頁に「ICチップ内の電子証明書の利用にはマイナンバー(個人番号)は使用しません」とありますから、別のICカードでも可能でしょう。
 なぜ、商店街や住民からの抵抗――持ち歩くことの危険性など――が予想されるマイナンバーカードにこだわるのでしょうか。

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 結局のところ「マイナンバーカードにポイントカードの機能を」は、商店街振興策からで出来た話ではなく、マイナンバーカードの普及を進める手段として、現実を見ない政治家や官僚の机の上で捻り出されたものなのではないでしょうか。

より以前の記事一覧