内閣府大臣補佐官の福田峰之氏の「私は自分の番号が入ったTシャツを作ろうと思っている」発言、大騒ぎになるだろうとと思っていたのですが、全然話題になってません。
このまま済ませて良いはずはないと考え記事にしました。
「週刊エコノミスト」の2015年9月15日号は、「マイナンバーがやって来る」と題した特集記事を掲載しました。編集部による「基礎知識Q&A」なとどもに、福田補佐官へのインタビュー記事も載っています。冒頭の発言は、その中で述べたものです。
インタビュー記事のリード文に「内閣府の実務担当者、福田峰之氏に聞いた」とあるように、福田氏は、マイナンバーの責任者の1人として活躍されており、最近は、特に「マイナちゃん」とともに国民への広報に力を入れておられます。
インタビューは、「どこまでセキュリティーを高めなければならないのか」という民間利用者の疑問があるとする聞き手の疑問に、福田補佐官が答えたものとなっています。
■「番号を知られても問題がない」を自ら実践するために、番号入りTシャツを作るという福田氏はマイナンバー担当相の補佐官
インタビューは、「マイナンバーを所管する甘利明・社会保障と税の一体改革担当相の補佐官として、制度全体の進捗状況を管理している」との自己紹介から始まり、セキュリティーに関わって「便乗商売が横行しているのは事実。それはやめてもらいたい。法律的にも、それほど大変な準備を求めていない」と述べています。
そのあと、話はやや脱線(?)していきます。
福田補佐官は「目指している世界観を一言で表現すると『カード1枚で生活できる』だ。財布にカードが何十枚も入っている人がいるが、私がやっている仕事は、それを1枚にすることだ」、「(マイナンバーのカードを)仮に落としても暗証番号が分からなければ、拾った人は何も出来ない」と。そして
・・・番号はただの「名前」。私が「福田峰之」と知られて、まずいことは何もないということと同じだ。私は自分の番号が入ったTシャツを作ろうと思っている。番号を知られても問題がないということを、自ら実践する。
としています。
■内閣官房のQ&Aは「むやみにマイナンバーを他人に教えないようにしてください」
ここまで読んで驚かれた人も多いと思います。マイナンバーの個人番号は、「他人に見せないように」ではなかったのかと。
そこで、あらためて内閣官房のWebサイト「マイナンバー 社会保障・税番号制度」を見てみることにしましょう。
「Q&A (5)個人情報の保護に関する質問」には
Q5-8 自分のマイナンバー(個人番号)を取り扱う際に気を付けることは何ですか?
A5-8 マイナンバーは、生涯にわたって利用する番号なので、忘失したり、漏えいしたりしないように大切に保管してください。法律や条例で決められている社会保障、税、災害対策の手続きで行政機関や勤務先などに提示する以外は、むやみにマイナンバーを他人に教えないようにしてください。他の手続きのパスワードなどにマイナンバーを使うことも避けてください。(2014年7月回答)
とあります。
「むやみにマイナンバーを他人に教えないようにしてください」の説明と、福田補佐官の「自分の番号が入ったTシャツ」は、あきらかに矛盾しています。
また、「フリーダウンロード資料」にある「一般の方向け」の「サマリー版(1ページ)」(PDF)には「法律で定められた目的以外でマイナンバーを利用したり、他人に提供したりすることはできません」と明確に書かれています。
そして、同じところからリンクが張られているポスターにも、「マイナンバー(個人番号)は、法律で定められた目的以外での使用、他人への提供が禁じられています」と書かれています(下図が当該部分。クリックすると拡大されます)。

番号が入ったTシャツ、自宅でこっそり着てお終いではないでしょう。福田補佐官は「番号を知られても問題がないということを、自ら実践する」と言うのですから、当然、人前で着るでしょう。その行為は「法律で定められた目的以外での使用」「他人に提供」には当たらないのでしょうか。
■総務省も「みだりに他人に知らせないように」「Facebook、LINE、Twitter などへの掲載もしてはいけません」と
ついでですから、あと二つほどあげておきます。まずは、総務省。
マイナンバーの通知カードと一緒に簡易書留で送られてくる「ご案内」(PDF)がダウンロードできるようになっています。その1ページの下の方(下図)に「マイナンバーを、みだりに他人に知らせないようにしましょう。」「 Facebook、LINE、Twitter などのSNS (ソーシャルネットワーキングサービス)への掲載も、してはいけません。」とあります。
福田補佐官は、「番号を知られても問題がないということを、自ら実践する」とおっしゃってますから、番号が入ったTシャツを着た姿を公開されるのでしょう、おそらく。
福田補佐官は、マイナンバーの広報などに Facebook や Twitter を盛んに活用されています。まさか、そこにTシャツ着用のお姿を流すとか、そんなことは・・・。
どちらにしても総務省のマイナンバーの担当者さんは、一度、福田補佐官とお話しをされた方が良いと思います。
■文部科学省は「安易に友達などに教えることがないように」と
もう一つ、文部科学省。
「マイナンバー(社会保障・税番号)制度に関する文部科学省からのお知らせ」の「学生の皆さまへ」には
・マイナンバーは原則として一生涯使うものになります。学生が手続で使う場面は上記での場合に限られますので、取扱いには注意いただき、安易に友達などに教えることがないようにしてください。
とあります。また、「学校関係者等事業主の皆さまへ」には
・マイナンバーは原則として一生涯使うものになります。取扱いには注意いただき、安易に友達などに教えることがないよう、児童生徒、学生に周知ください。
とあります。
文部科学省のマイナンバーの担当者さんは、学生や児童生徒のみなさんへの教育上の観点から、一度、福田補佐官とお話しをされた方が良いと思います。「福田のおっちゃんのまねしただけや、なんであかんの」とか子どもたちから突っ込まれると現場の先生方は困ってしまいますので。
■番号法は、番号の提供を原則禁止としています。福田さん大丈夫ですか?
最後に、番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)を見てみましょう。
(特定個人情報の提供の制限)
第十九条 何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。
一 個人番号利用事務実施者が個人番号利用事務を処理するために必要な限度で本人若しくはその代理人又は個人番号関係事務実施者に対し特定個人情報を提供するとき。
二 個人番号関係事務実施者が個人番号関係事務を処理するために必要な限度で特定個人情報を提供するとき(第十号に規定する場合を除く。)。
三 本人又はその代理人が個人番号利用事務等実施者に対し、当該本人の個人番号を含む特定個人情報を提供するとき。
四 機構が第十四条第二項の規定により個人番号利用事務実施者に機構保存本人確認情報を提供するとき。
五 特定個人情報の取扱いの全部若しくは一部の委託又は合併その他の事由による事業の承継に伴い特定個人情報を提供するとき。
六 住民基本台帳法第三十条の六第一項の規定その他政令で定める同法の規定により特定個人情報を提供するとき。
七 別表第二の第一欄に掲げる者(法令の規定により同表の第二欄に掲げる事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合にあっては、その者を含む。以下「情報照会者」という。)が、政令で定めるところにより、同表の第三欄に掲げる者(法令の規定により同表の第四欄に掲げる特定個人情報の利用又は提供に関する事務の全部又は一部を行うこととされている者がある場合にあっては、その者を含む。以下「情報提供者」という。)に対し、同表の第二欄に掲げる事務を処理するために必要な同表の第四欄に掲げる特定個人情報(情報提供者の保有する特定個人情報ファイルに記録されたものに限る。)の提供を求めた場合において、当該情報提供者が情報提供ネットワークシステムを使用して当該特定個人情報を提供するとき。
八 国税庁長官が都道府県知事若しくは市町村長に又は都道府県知事若しくは市町村長が国税庁長官若しくは他の都道府県知事若しくは市町村長に、地方税法第四十六条第四項若しくは第五項、第四十八条第七項、第七十二条の五十八、第三百十七条又は第三百二十五条の規定その他政令で定める同法又は国税(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第一号に規定する国税をいう。以下同じ。)に関する法律の規定により国税又は地方税に関する特定個人情報を提供する場合において、当該特定個人情報の安全を確保するために必要な措置として政令で定める措置を講じているとき。
九 地方公共団体の機関が、条例で定めるところにより、当該地方公共団体の他の機関に、その事務を処理するために必要な限度で特定個人情報を提供するとき。
十 社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第二条第五項に規定する振替機関等(以下この号において単に「振替機関等」という。)が同条第一項に規定する社債等(以下この号において単に「社債等」という。)の発行者(これに準ずる者として政令で定めるものを含む。)又は他の振替機関等に対し、これらの者の使用に係る電子計算機を相互に電気通信回線で接続した電子情報処理組織であって、社債等の振替を行うための口座が記録されるものを利用して、同法又は同法に基づく命令の規定により、社債等の振替を行うための口座の開設を受ける者が第九条第三項に規定する書面(所得税法第二百二十五条第一項(第一号、第二号、第八号又は第十号から第十二号までに係る部分に限る。)の規定により税務署長に提出されるものに限る。)に記載されるべき個人番号として当該口座を開設する振替機関等に告知した個人番号を含む特定個人情報を提供する場合において、当該特定個人情報の安全を確保するために必要な措置として政令で定める措置を講じているとき。
十一 第五十二条第一項の規定により求められた特定個人情報を特定個人情報保護委員会に提供するとき。
十二 各議院若しくは各議院の委員会若しくは参議院の調査会が国会法(昭和二十二年法律第七十九号)第百四条第一項(同法第五十四条の四第一項において準用する場合を含む。)若しくは議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(昭和二十二年法律第二百二十五号)第一条の規定により行う審査若しくは調査、訴訟手続その他の裁判所における手続、裁判の執行、刑事事件の捜査、租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査又は会計検査院の検査(第五十三条において「各議院審査等」という。)が行われるとき、その他政令で定める公益上の必要があるとき。
十三 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合において、本人の同意があり、又は本人の同意を得ることが困難であるとき。
十四 その他これらに準ずるものとして特定個人情報保護委員会規則で定めるとき。
内閣官房のWebサイト「マイナンバー 社会保障・税番号制度」にある「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の逐条解説」(PDF)の44頁にはこう書かれています。
特定個人情報の提供は、原則禁止される(第19条柱書)ところ、本条において提供を禁止される特定個人情報とは、
① 個人番号をその内容に含む個人情報
② 個人番号そのものを含まないものの、個人番号に対応し、当該個人番号に代わって用いられる番号、記号その他の符号を含む個人情報
とされている(第2条第8項)。
・・・略・・・
特定個人情報の提供が認められる場合は第1号から第14号までに掲げられる場合のみである。
福田補佐官の「私は自分の番号が入ったTシャツを作ろうと思っている」までは番号法第十九条に抵触はしないと思います。しかし、「番号を知られても問題がないということを、自ら実践する」として、Tシャツを着て街を歩くとか、FacebookやTwitterで着用している写真を流すとかすると第十九条に反するように思うのですが、大丈夫なのでしょうか。
■Tシャツを着た福田補佐官をスマホで写すとどうなる?
では、自分の番号が入ったTシャツを着た福田補佐官をスマホで写すとどうなるのでしょう。内閣官房のWebサイト「マイナンバー 社会保障・税番号制度」の 「Q&A (3)カードに関する質問」には
Q3-8 行政手続ではなく、レンタル店やスポーツクラブに入会する場合などにも個人番号カードを身分証明書として使って良いのですか?
A3-8 個人番号カードの券面には、氏名、住所、生年月日、性別(基本4情報)、顔写真が記載されており、レンタル店などでも身分証明書として広くご利用いただけます。ただし、カードの裏面に記載されているマイナンバー(個人番号)をレンタル店などに提供することはできません。また、レンタル店などがマイナンバーを書き写したり、コピーを取ったりすることは禁止されています。(2014年6月回答)
とあります。これは番号法の
(収集等の制限)
第二十条 何人も、前条各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し、又は保管してはならない。
に抵触するからです。なお、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の逐条解説」(PDF)の48頁には、
「収集」とは集める意思をもって自己の占有に置くことをいう。人から取得する場合のほか、電子計算機等から取得する場合も含む。情報を閲覧することのみでは「収集」にあたらない。
「保管」とは、自己の勢力範囲内に保持することをいう。個人番号が記録された文書や電磁的記録を自宅に持ち帰り、置いておくことなどである。
と書かれています。
もし、街角で、自分の番号が入ったTシャツを福田補佐官が着て歩いているのを見て、スマホで写真を撮ると、第二十条に抵触することになりそうですがどうなんでしょう。
番号の書かれた個人番号カードの裏面をコピーする行為と、番号の書かれたTシャツを撮影する行為は、法律的にはどう違うのでしょうか。
さらに写した写真をFacebookやTwitterで流したり、FacebookやTwitterで流れてきた福田補佐官の写真をシェアしたり、リツイートしたりすると・・・。
あとは法曹関係者にお任せします。
■「収集等の制限」には罰則もありますが・・・
なお、第十九条の「特定個人情報の提供の制限」には罰則はありませんが、第二十条の「収集等の制限」には罰則があります。
第七十条 人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の個人番号を保有する者の管理を害する行為により、個人番号を取得した者は、三年以下の懲役又は百五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の規定は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用を妨げない。
福田補佐官がTシャツを着用している姿を写真で取る行為が「その他の個人番号を保有する者の管理を害する行為」に当たるのかどうかは、私にはわかりませんが、写した写真をネットで拡散すると、その行為は「管理を害する行為」に当たるような気がします。
法曹関係者のご意見など機会があればお聞きしたいと思います。