パナマ文書でタックスヘイブンが話題になっておりますが、国税庁も麻生財務相も、マイナンバーによる海外資産・取引情報の把握には限界があると申されております
タックスヘイブンとマイナンバーの関係については、拙著『マイナンバーはこんなに恐い!』でも言及しています。
タックスヘイブン(租税回避地)に関する「パナマ文書」が話題になっていますが、よもや「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)があれば、こんな租税回避という名の不正はできないぞ」と勘違いされている方はいらっしゃらないとは思いますが、念のため、国税庁の見解を以下載せておきます。
◆個人番号を利用しても「海外資産・取引情報の把握には限界」と国税庁ウェプサイト
国税庁「社会保障・税番号制度の概要について」 ※ 赤字強調は引用者
社会保障・税番号制度の概要
(1) -引用者略-
(2) 国税分野での利活用
国税分野においては、確定申告書、法定調書等の税務関係書類に個人番号・法人番号が記載されることから、法定調書の名寄せや申告書との突合が、個人番号・法人番号を用いて、より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上し、適正・公平な課税に資するものと考えています。
他方で、個人番号・法人番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があり、個人番号・法人番号が記載された法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。
大事なことなので、もう一度。
「個人番号・法人番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があり・・・」
◆国税庁レポートは「海外資産、取引の把握は困難であることに留意せよ」とありがたいお言葉
ついでにもう一つ。
「国税庁レポート 2015」(PDF)49頁 ※ 赤字強調は引用者
Ⅴ 納税者利便の向上と行政効率化のための取組
1 社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の導入
(3)個人番号及び法人番号の利活用機関としての対応
-引用者略-
~ 所得把握の適正化・効率化 ~
国税分野では、申告書、法定調書等の書類に番号が記載されることから、法定調書の名寄せや申告書との突合が、より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上するものと考えています。もとより、事業所得や海外資産・取引情報をはじめ、法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、番号を利用しても全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。
大事なことなので、もう一度。
「事業所得や海外資産・取引情報をはじめ、法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、番号を利用しても全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。」
◆海外資産・取引の把握、最初からマイナンバーでは無理とわかっていた
もちろんこうした「マイナンバーでもタックスヘイブンはどないもでけへんわ」という「見解」は、国税庁だけのものではありません。マイナンバー制度創設のもとになった「社会保障・税番号大綱」(PDF)にも書かれています。 18~19頁 ※ 赤字強調は引用者
5.番号制度の可能性と限界・留意点
(1)番号制度の可能性
-引用者略-
(2)番号制度の限界
一方、そのような制度改革と併せても、全てが完全に実現されるわけではない。例えば、全ての取引や所得を把握し不正申告や不正受給をゼロにすることなどは非現実的であり、また、「番号」を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある。
しかし、これら全てが完全には実現できないにしても、番号制度の導入と制度改革による一定の改善には大きな意義がある。
大事なことなので、もう一度。
「『番号』を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある。」
要するに「マイナンバーでもタックスヘイブンはどないもできんわ。そんなことぐらいお前らわかるやろ」ということですね。
「社会保障・税番号大綱」(PDF)は、2011年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部によって決定されています。民主党政権(菅内閣)の時代です。
では政権が自民党に代わった際に、この「見解」が否定されたのかというと、冒頭で示したように国税庁のウェプサイトに同様の記述がいまもありますから、否定されたわけではありませんね。継承されていると見た方が良いでしょう。
◆安倍政権も、マイナンバーによる「海外資産、取引の把握には限界」と認めている
そこで国会の議事録を政権交代後(2012年12月以降)に限って検索してみると。
2013年4月3日の衆議院内閣委員会での村上史好議員(生活の党)の質問と政府側の答弁から一部引用します。
※ 赤字強調は引用者
○村上(史)委員 ・・・(本会議の)答弁で、社会保障・税番号制度は、より公平な社会保障制度や税制の基盤となると答弁される一方で、社会保障・税番号大綱には、番号制度を導入しても、全ての取引や所得を把握し、不正申告あるいは不正受給をゼロにすることなどは非現実的である、また、番号を利用しても、事業所得や海外資産、取引の情報の把握には限界があると明記されております。・・・政府として、この番号制度の限界に対する対応はどのように考えておられるのか、お尋ねします。
○甘利国務大臣 完璧に全ての所得を捕捉するということになりますと、いろいろとコストも膨大になるでしょうし、国民がそんなところまでという支持をするかどうか。・・・
・・・
○村上(史)委員 ということは、先ほど申し上げましたけれども、海外資産等の把握は今後ともやっていく、いずれやっていくということでよろしいんでしょうか。
○向井政府参考人 海外資産の把握につきましては、物事の性質上、なかなか難しい面もございます。・・・
政権が自民党に交代しても、「出来ないものは出来ない」ということのようです。
またまた、ついでにもう一つ。
2013年5月23日の参議院内閣委員会 藤本祐司議員(民主党・新緑風会)の質問に対する政府側の答弁から一部引用します。 ※ 赤字強調は引用者
○大臣政務官(伊東良孝君)・・・所得の把握の正確性が向上し、適正、公正な課税に資するものということになるわけでございます。
しかしながら、他方で、この番号を利用しましても、事業所得やあるいは海外資産、取引情報等々に関しましてはおのずと限界がある話でございまして、番号が記載された法定調書だけでは把握、確認が困難な取引などもたくさんあるわけでございます。・・・
◆麻生大臣も「海外での所得の把握には一定の限界」と国会答弁
さらに麻生太郎財務大臣も、2015年5月21日の参議院財政金融委員会にて、尾立源幸議員(民主党・新緑風会)の質問に対して ※ 赤字強調は引用者
○国務大臣(麻生太郎君) ・・・マイナンバー導入後も、例えばいわゆる国外、海外での所得とか、またマイナンバーが付されていない預貯金口座というものの存在など、所得、資産というものの把握にこれは一定の限界は残るものというのはもう確かだと思いますけれども・・・
麻生財務相のお考えは「マイナンバー入れても、海外の所得なんかわかるわけないでしょ」ということですね。
タックスヘイブンに資産を預けている人は、マイナンバーは関係なしなのです。良かったですね。だから大金持ちのみなさんはマイナンバーに反対しないのでしょう。
さすがにこれは考えすぎだとは思いますが、ひょっとすると国税庁や政府が「マイナンバーで海外資産の把握は困難」と繰り返しアナウンスして来たのは、大金持ちのみなさんが自分たちの資産も把握されるのかと「誤解」してマイナンバー制度に反対するのを防ぐためなのかも知れません。
ところで、国税庁が言うマイナンバーで「より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上し、適正・公平な課税に資するものと考えています」の具体的中身はなんでしょう。長くなってしまいましたので、この件については、またあらためて後日・・・
◆ なお、パナマ文書で首相が辞任したアイスランドにもマイナンバーと同様の番号制度があります。しかし、アイスランドの国税当局は首相の海外資産について把握できていなかったようです。
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