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2016年4月26日 (火)

健康保険証カード化 ―コロコロと変わった厚労省の方針 2次元コードから健康ITカード、さらに社会保障カードへ

 「マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした」の続きです。
 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

 ※ 赤字強調は筆者

■厚労省は、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を開始し、2007年度中に結論を出すとしていた

 「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」を2006年9月に公表するなど健康保険の資格確認のオンライン化を検討していた厚生労働省であったが、2007年3月16日に開催された経済財政諮問会議において、柳澤伯夫厚生労働大臣は、俄に「健康ITカード(仮称)の導入構想」を提案した。

 柳澤大臣が配付した説明資料「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニューについて」(PDF)の1頁(下図)には、「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニュー」の1つとして「利便性等の向上」があげられ、その中に「『健康ITカード(仮称)』の導入に向けた検討  早急に検討に着手し、平成19年度中に結論」を出すとあった。

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 さらに説明資料の3頁には「『健康ITカード(仮称)』の導入構想について」と表題が付けられた図(下図)が掲載されていた。

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◆カード交付は、希望者を対象にスタート。社会保障番号(仮称)の導入に向けた検討も行うとしていた

 「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニューについて」(PDF)は、「新たな取組み」として「健康保険証を全て個人カード化」し、「健康ITカード(仮称)」の交付を「希望者を対象にスタート」するとしていた。
 また「レセプトオンライン化に伴う医療機関、審査支払機関、保険者間の情報ネットワーク化(原則全てがレセプトオンライン化される平成23年度当初までには普及)」し、「データを蓄積するサーバーの設置」とともに「社会保障番号(仮称)の導入に向けた検討 ※希望者には、健康保険証に番号登載」を行うとある。

 これらにより、「国民個人ができるようになること ―将来像」として、「自らの特定健診(平成20年度から実施の健診)の結果やレセプトの内容を閲覧し、出力できる」「診察の際に、自らの持病やアレルギー、投薬の状況、各種検査の結果等について、他院におけるものも含め、引き出せる」「高額療養費等の申請手続きの簡素化、申請漏れの防止ができる」としている。

 一方、「健康ITカード(仮称)」は、「被保険者資格の確認や保険料の未納対策にも用いることができる」ようにもなるとしている。これは、「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」が「2次元コード(QRコード)が必要かつ十分な機能を有し、ICチップはオーバースペックである」としつつも、「医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカードが導入されるのであれば、このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる」を踏まえたものであろう。

 また、「健康ITカード(仮称)」の導入に向け、2007年度中に、「システムの基本構想づくり」「個人情報の保護」「社会保障番号(仮称)の付番方法、カードへの登載方法、費用分担」「費用対効果」を検討するとしている。また「※ 社会保障番号(仮称)は、介護や年金における手続等、社会保障全般に活用できることも視野に入れて検討」としている。

 

■経済財政諮問会議が取りまとめた「成長力加速プログラム」に健康ITカード(仮称)が盛り込まれる

 経済財政諮問会議は、2007年4月25日、「生産性の上昇を図る上で足枷となっている重要な改革課題を明らかにし、その対応策の基本構想を示すもの」として「成長力加速プログラ]ム ~ 生産性5割増を目指して ~」を取りまとめた。

 成長力加速プログラムは、「『サービス革新戦略』を実行することで、経済効率と質を引き上げ、国際的にも見劣りのしない生産性水準にキャッチアップする」ために、「低生産性分野から高生産性分野へと労働・資本の円滑な移動を促進し、資源の効率的配分を進める」ことを目的に、「ITの本格的活用を通じて、ネットワーク化や組織革新等を進め、新成長基盤の効率化を図る」ことを「戦略の柱」の1つとしている。
 そして、その一環として「医療のIT化を進めるため、『健康ITカード(仮称)』の導入に向け、システムの基本構想等について検討を行い、年内を目途に結論を得る」とした。

 

■厚労省、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」を2007年5月15日の経済財政諮問会議に提出

 厚生労働省は、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(PDF)を2007年5月15日に開催された経済財政諮問会議に説明資料として提出した。

 プログラムは、2007年3月16日の会議で示した先の配付資料を踏襲するもので、20項目あげられた「具体的取組」の1つとして、「健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討」があげられ、「平成19年中を目途に、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を行い、結論」を出すとしている。

 また、同時に示されたプログラムの参考資料(PDF)の7頁には「社会保障全体を視野に入れたシステムの基本構想づくり」「個人情報の保護」「社会保障番号(仮称)の付番方法、カードへの登載方法、費用分担」「費用対効果」が検討事項としてあげられている。

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◆日本医師会は、健康ITカード(仮称)について「健康情報は究極の個人情報である点を踏まえ、事前の十分な国民的議論が必要である」と見解を表明

 「骨太の方針2007」が閣議決定されるのを前に、2007年6月6日の日本医師会の定例記者会見で中川俊男常任理事は、行き過ぎた歳出改革の是正を求めるとともに、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」の問題点を指摘した。
 同プログラムに関する記者会見資料(PDF)の健康ITカード(仮称)に関する部分は次の通り。

健康ITカード(仮称)

平成19年度中を目途に健康ITカード(仮称)の導入に向けた結論」

健康情報は究極の個人情報である点を踏まえ、事前の十分な国民的議論が必要である。

-プライバシーの問題

・国民は、相手が医療・介護の従事者であっても、自らの健康情報を全て知られたくはない。
・ID窃盗などによる危険性はクレジットカードなどの金銭のみの損失とは比較にならない。
・年金・医療・介護・雇用の制度をまたがる「健康ITカード」は、多くの民間人による操作が想定され、さらに情報漏えいの危険性が懸念される。

-財源の問題

・カードの発行費用。
・カード情報と既存病院システムとの連携コスト。
・患者が自分の受けた診療内容を確認するには、個人が特定できる。生涯1患者1カルテの巨大なデータベースが必要。

 

■「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行う ―骨太の方針2007

 2007年6月19日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007(骨太の方針2007)」(PDF)は、「1.歳出・歳入一体改革の実現」の項の「(2)社会保障改革」において2008年度から2012年度までの5年間を基本とする「『医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム』等を推進する」としている。

(2)社会保障改革

① 医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム

 医療・介護サービスについて、質の維持向上を図りつつ、効率化等により供給コストの低減を図る。このため、以下の取組を盛り込んだ平成20年度から24年度までの5年間を基本とする「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」等を推進する。

生活習慣病対策・介護予防の推進、平均在院日数の短縮、在宅医療・在宅介護の推進と住宅政策との連携、診療所と病院の役割の明確化、EBMの推進と医療の標準化、重複・不要検査の是正、後発医薬品の使用促進、不正な保険医療機関や介護サービス事業者等への指導・監査の強化、医師・看護師等の医療従事者等の役割分担の見直し、診療報酬・介護報酬の見直し、包括払いの促進、IT化の推進(原則レセプト完全オンライン化、健康ITカード(仮称)導入に向けた検討)、地域医療提供体制の整備、医療情報の提供、医療・介護の安全体制の確保等

② 同プログラムの強化と検証

 同プログラムに定めた目標の実現に向けて、実効性のある改革の取組を進め、平成20年度予算から順次反映させる。また、厚生労働省は、同プログラムの実施状況を検証した上で、経済財政諮問会議に適宜報告する。これに基づき、必要に応じてプログラムの見直しを行い、PDCAサイクルを貫徹する。

③ 公立病院改革

 ・・・引用者略・・・

 なお、上記のプログラムを踏まえ、平成19年内に「基本方針2006」を達成するための道筋を示す。

 特に、健康ITカード(仮称)については、「4.質の高い社会保障サービスの構築」の項の「(3)社会保障の情報化の推進」において、平成19年内を目途に結論を得るとしている。

 個人が自分の健康情報、年金や医療等の給付と負担等の情報を簡単にオンライン等で入手・管理できるとともに、社会保障に関する手続を安全かつ簡単に行うことができる仕組みの構築を目指す。このため、「電子私書箱」(仮称)を検討し、平成22年頃のサービス開始を目指すとともに、「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行い、平成19年内を目途に結論を得る。これらについては、密接な連携をとって一体的な推進を図ることとし、平成19年度内に、個人情報の保護等に留意しつつ、全体的な基本構想を作成する。

◆「骨太の方針2007」の閣議決定により、健康保険証に二次元コード(QRコード)を装着する計画は中止に

 厚生労働省保険局総務課は、2007年7月9日付で「被保険者証の券面に二次元コードを装着することを目的とした省令改正の中止について」(PDF)と題する文書を関係機関に発した。

 「平成20年4月より健康保険及び国民健康保険の被保険者証にQRコードを装着することを予定」していたが、「『経済財政改革の基本方針2007』(骨太の方針)により、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を行うことが閣議決定されるなど諸般の状況を踏まえ、省令改正を中止する」こととしたとある。

【解説】

 「マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした」にも書きましたが、厚生労働省は、健康保険の資格確認のオンライン化に向け「医療保険被保険者資格確認検討会」にて検討を2005年8月から行ってきました。
 2006年9月には、2次元コード(QRコード)をカード化した健康保険証の券面に装着するなどとする「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」を公表しました。

 その一方、上記にあるように、「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)」の一部として、医療のIT化を進め、より高度なサービスを提供するための「健康ITカード(仮称)」の導入も検討していました。
 このカードを使えば、特定健診結果やレセプト内容の閲覧や、診察の際に持病やアレルギー、投薬の状況、各種検査の結果等について引き出せ、高額療養費等の申請手続きの簡素化、申請漏れの防止もできるなどとしています。

 また、「健康ITカード(仮称)」は、経済財政諮問会議において「成長基盤の効率化」の文脈で議論されていた点にも注意が必要でしょう。サービス向上だけが目的ではなかったのです。

 もちろん「健康ITカード(仮称)」実現されなかったわけですが、現在のマイナンバーカードよりも「多機能」かつ「便利」なものとして構想されていたようです。
 これらの文書には書いてありませんが、多機能化を図ることから「健康ITカード(仮称)」にはICカードが使われることは前提となっていたと思われます。
 また、「健康ITカード(仮称)」は、保険料の未納対策とともに、被保険者資格の確認にも用いることも想定されていましたから、厚生労働省が2007年7月9日に発した文書にあるように、2次元コード(QRコード)の利用の検討は中止されることとなったのです。

 なお、「健康ITカード(仮称)」の名称は、「骨太の方針2007」以降、政府のサイトには見あたらないようです。翌年の「骨太の方針2008」では「社会保障カード(仮称)の導入」となっています。

 このように健康保険証のカード化を巡る厚労省の方針は、2年程の極めて短い間にもかかわらず、「カード化し2次元コードを貼る。ICカードはオーバースペック」から「(ICカードを前提とした)健康ITカード(仮称)」、さらには「社会保障カード(仮称)」と、コロコロと変わっていったのです。無責任というか、時間と金の無駄というか・・・検討会などで交わされた議論は、一体全体何だったのでしょう。

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