フォト

本を出しました

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
2016年10月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

« 2016年3月 | トップページ | 2016年5月 »

2016年4月28日 (木)

マイナンバーカードの交付遅れ問題の責任を市町村に押し付ける高市総務相 ― どこまで行っても無責任な安倍政権

 NHKニュースが、高市総務大臣が4月28日の閣議後の記者会見で、マイナンバーカードの自治体による交付作業が遅れていることについて、「早期交付に向けて支援を行う考え」を示したと報じていることを知り、「支援」はおかしいだろうと思いちょっと調べて書いてみました。

■高市大臣はカードの交付は市区町村の業務と発言 しかし、交付は法定受託事務

 高市総務大臣が4月28日の記者会見で、述べた内容は総務省のサイトにあります。マイナンバーカードの交付がシステムの不具合により遅れている件についての発言を抜き出すと

 法的には、マイナンバーカードの交付につきましては市区町村の業務でございます。また、J-LISも地方共同法人ということでございますので、そのガバナンスや人事に対して、私どもが何か権限を持っているものではございません。

 しかし、マイナンバーカードの交付事務(番号法17条1項)は、市区町村が、自らの責任において独自に執り行う「自治事務」ではありません。
 番号法第44条によれば、「第一号法定受託事務」、すなわち 「国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」(地方自治法2条9項1号)です。市区町村が「自らの意思」で「自主的」に行っているものではないのです。
 
 また、マイナンバーカードの発行など、制度に関わるシステムの維持管理を行っている J-LIS (地方公共団体情報システム機構)は、国が定めた「地方公共団体情報システム機構法」に基づく組織です。
 同法の第五条第二項には「機構の定款の変更は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない」とあることから見ても、大臣の「権限を持っているものではございません」との発言は、責任逃れだと言わざるを得ません。

番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)

第十七条  市町村長は、政令で定めるところにより、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする。この場合において、当該市町村長は、その者から通知カードの返納及び前条の主務省令で定める書類の提示を受け、又は同条の政令で定める措置をとらなければならない。

第四十四条  第七条第一項及び第二項、第八条第一項(附則第三条第四項において準用する場合を含む。)、第十七条第一項及び第三項(同条第四項において準用する場合を含む。)並びに附則第三条第一項から第三項までの規定により市町村が処理することとされている事務は、地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

地方自治法

第二条第九項第一号 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。) 

地方公共団体情報システム機構法

第五条第二項 機構の定款の変更は、総務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。

■市町村を「支援」と他人事のような発言も

 最初に出てきたNHKニュースにある高市大臣の「支援」発言の部分は次の通りです。

 総務省としましても、ここにきましたら、一刻も早く、申請された方の御手元にカードがお届けできるように、J-LISのシステム障害の解消を一つの契機としまして、市区町村と連携しながら、交付のスピードアップに取り組むための支援をしたいと思っています。

 市区町村が自らの意思で「自主的」に行っていることが、何らかの理由により困難になったのなら、国からの「支援」はわかります。しかし、繰り返しますが、交付事務は法定受託事務です。主体はあくまでも国であり、総務省です。市区町村は国の「命令」で、唯々諾々と従っているだけです。

 高市大臣は、マイナンバーの制度を作り、カードの交付を始めたのは誰であると思っているのでしょう。まさか市区町村が勝手に始めたとでも思っているのでしょうか。
 こうした発言は、国の責任者としてはあまりにも無責任です。

 「支援など必要ない。マイナンバーカード交付事務は国に返上する」と怒る市区町村が一つぐらいあっても良いとは思うのですが、安倍政権のもとでは、そんな勇気を出すのは無理でしょうね。

■不勉強なのは大臣だけではないようです

 ところで、この大臣発言は、日経新聞の記者からの質問に答えたものです。質問の一部を抜き出すと

 基本的に交付事務は自治体の仕事であると思うので、そこは裁量に任されている部分もあると思うのですけれども・・・

 不勉強なのは、残念ながら高市大臣だけではなかったようです。大臣もこんな記者相手なら楽で良いですね。

2016年4月26日 (火)

健康保険証カード化 ―コロコロと変わった厚労省の方針 2次元コードから健康ITカード、さらに社会保障カードへ

 「マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした」の続きです。
 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

 ※ 赤字強調は筆者

■厚労省は、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を開始し、2007年度中に結論を出すとしていた

 「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」を2006年9月に公表するなど健康保険の資格確認のオンライン化を検討していた厚生労働省であったが、2007年3月16日に開催された経済財政諮問会議において、柳澤伯夫厚生労働大臣は、俄に「健康ITカード(仮称)の導入構想」を提案した。

 柳澤大臣が配付した説明資料「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニューについて」(PDF)の1頁(下図)には、「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニュー」の1つとして「利便性等の向上」があげられ、その中に「『健康ITカード(仮称)』の導入に向けた検討  早急に検討に着手し、平成19年度中に結論」を出すとあった。

487
 さらに説明資料の3頁には「『健康ITカード(仮称)』の導入構想について」と表題が付けられた図(下図)が掲載されていた。

488

◆カード交付は、希望者を対象にスタート。社会保障番号(仮称)の導入に向けた検討も行うとしていた

 「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)のメニューについて」(PDF)は、「新たな取組み」として「健康保険証を全て個人カード化」し、「健康ITカード(仮称)」の交付を「希望者を対象にスタート」するとしていた。
 また「レセプトオンライン化に伴う医療機関、審査支払機関、保険者間の情報ネットワーク化(原則全てがレセプトオンライン化される平成23年度当初までには普及)」し、「データを蓄積するサーバーの設置」とともに「社会保障番号(仮称)の導入に向けた検討 ※希望者には、健康保険証に番号登載」を行うとある。

 これらにより、「国民個人ができるようになること ―将来像」として、「自らの特定健診(平成20年度から実施の健診)の結果やレセプトの内容を閲覧し、出力できる」「診察の際に、自らの持病やアレルギー、投薬の状況、各種検査の結果等について、他院におけるものも含め、引き出せる」「高額療養費等の申請手続きの簡素化、申請漏れの防止ができる」としている。

 一方、「健康ITカード(仮称)」は、「被保険者資格の確認や保険料の未納対策にも用いることができる」ようにもなるとしている。これは、「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめ」が「2次元コード(QRコード)が必要かつ十分な機能を有し、ICチップはオーバースペックである」としつつも、「医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカードが導入されるのであれば、このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる」を踏まえたものであろう。

 また、「健康ITカード(仮称)」の導入に向け、2007年度中に、「システムの基本構想づくり」「個人情報の保護」「社会保障番号(仮称)の付番方法、カードへの登載方法、費用分担」「費用対効果」を検討するとしている。また「※ 社会保障番号(仮称)は、介護や年金における手続等、社会保障全般に活用できることも視野に入れて検討」としている。

 

■経済財政諮問会議が取りまとめた「成長力加速プログラム」に健康ITカード(仮称)が盛り込まれる

 経済財政諮問会議は、2007年4月25日、「生産性の上昇を図る上で足枷となっている重要な改革課題を明らかにし、その対応策の基本構想を示すもの」として「成長力加速プログラ]ム ~ 生産性5割増を目指して ~」を取りまとめた。

 成長力加速プログラムは、「『サービス革新戦略』を実行することで、経済効率と質を引き上げ、国際的にも見劣りのしない生産性水準にキャッチアップする」ために、「低生産性分野から高生産性分野へと労働・資本の円滑な移動を促進し、資源の効率的配分を進める」ことを目的に、「ITの本格的活用を通じて、ネットワーク化や組織革新等を進め、新成長基盤の効率化を図る」ことを「戦略の柱」の1つとしている。
 そして、その一環として「医療のIT化を進めるため、『健康ITカード(仮称)』の導入に向け、システムの基本構想等について検討を行い、年内を目途に結論を得る」とした。

 

■厚労省、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」を2007年5月15日の経済財政諮問会議に提出

 厚生労働省は、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」(PDF)を2007年5月15日に開催された経済財政諮問会議に説明資料として提出した。

 プログラムは、2007年3月16日の会議で示した先の配付資料を踏襲するもので、20項目あげられた「具体的取組」の1つとして、「健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討」があげられ、「平成19年中を目途に、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を行い、結論」を出すとしている。

 また、同時に示されたプログラムの参考資料(PDF)の7頁には「社会保障全体を視野に入れたシステムの基本構想づくり」「個人情報の保護」「社会保障番号(仮称)の付番方法、カードへの登載方法、費用分担」「費用対効果」が検討事項としてあげられている。

489
◆日本医師会は、健康ITカード(仮称)について「健康情報は究極の個人情報である点を踏まえ、事前の十分な国民的議論が必要である」と見解を表明

 「骨太の方針2007」が閣議決定されるのを前に、2007年6月6日の日本医師会の定例記者会見で中川俊男常任理事は、行き過ぎた歳出改革の是正を求めるとともに、「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」の問題点を指摘した。
 同プログラムに関する記者会見資料(PDF)の健康ITカード(仮称)に関する部分は次の通り。

健康ITカード(仮称)

平成19年度中を目途に健康ITカード(仮称)の導入に向けた結論」

健康情報は究極の個人情報である点を踏まえ、事前の十分な国民的議論が必要である。

-プライバシーの問題

・国民は、相手が医療・介護の従事者であっても、自らの健康情報を全て知られたくはない。
・ID窃盗などによる危険性はクレジットカードなどの金銭のみの損失とは比較にならない。
・年金・医療・介護・雇用の制度をまたがる「健康ITカード」は、多くの民間人による操作が想定され、さらに情報漏えいの危険性が懸念される。

-財源の問題

・カードの発行費用。
・カード情報と既存病院システムとの連携コスト。
・患者が自分の受けた診療内容を確認するには、個人が特定できる。生涯1患者1カルテの巨大なデータベースが必要。

 

■「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行う ―骨太の方針2007

 2007年6月19日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007(骨太の方針2007)」(PDF)は、「1.歳出・歳入一体改革の実現」の項の「(2)社会保障改革」において2008年度から2012年度までの5年間を基本とする「『医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム』等を推進する」としている。

(2)社会保障改革

① 医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム

 医療・介護サービスについて、質の維持向上を図りつつ、効率化等により供給コストの低減を図る。このため、以下の取組を盛り込んだ平成20年度から24年度までの5年間を基本とする「医療・介護サービスの質向上・効率化プログラム」等を推進する。

生活習慣病対策・介護予防の推進、平均在院日数の短縮、在宅医療・在宅介護の推進と住宅政策との連携、診療所と病院の役割の明確化、EBMの推進と医療の標準化、重複・不要検査の是正、後発医薬品の使用促進、不正な保険医療機関や介護サービス事業者等への指導・監査の強化、医師・看護師等の医療従事者等の役割分担の見直し、診療報酬・介護報酬の見直し、包括払いの促進、IT化の推進(原則レセプト完全オンライン化、健康ITカード(仮称)導入に向けた検討)、地域医療提供体制の整備、医療情報の提供、医療・介護の安全体制の確保等

② 同プログラムの強化と検証

 同プログラムに定めた目標の実現に向けて、実効性のある改革の取組を進め、平成20年度予算から順次反映させる。また、厚生労働省は、同プログラムの実施状況を検証した上で、経済財政諮問会議に適宜報告する。これに基づき、必要に応じてプログラムの見直しを行い、PDCAサイクルを貫徹する。

③ 公立病院改革

 ・・・引用者略・・・

 なお、上記のプログラムを踏まえ、平成19年内に「基本方針2006」を達成するための道筋を示す。

 特に、健康ITカード(仮称)については、「4.質の高い社会保障サービスの構築」の項の「(3)社会保障の情報化の推進」において、平成19年内を目途に結論を得るとしている。

 個人が自分の健康情報、年金や医療等の給付と負担等の情報を簡単にオンライン等で入手・管理できるとともに、社会保障に関する手続を安全かつ簡単に行うことができる仕組みの構築を目指す。このため、「電子私書箱」(仮称)を検討し、平成22年頃のサービス開始を目指すとともに、「健康ITカード」(仮称)の導入に向けた検討を行い、平成19年内を目途に結論を得る。これらについては、密接な連携をとって一体的な推進を図ることとし、平成19年度内に、個人情報の保護等に留意しつつ、全体的な基本構想を作成する。

◆「骨太の方針2007」の閣議決定により、健康保険証に二次元コード(QRコード)を装着する計画は中止に

 厚生労働省保険局総務課は、2007年7月9日付で「被保険者証の券面に二次元コードを装着することを目的とした省令改正の中止について」(PDF)と題する文書を関係機関に発した。

 「平成20年4月より健康保険及び国民健康保険の被保険者証にQRコードを装着することを予定」していたが、「『経済財政改革の基本方針2007』(骨太の方針)により、健康ITカード(仮称)の導入に向けた検討を行うことが閣議決定されるなど諸般の状況を踏まえ、省令改正を中止する」こととしたとある。

【解説】

 「マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした」にも書きましたが、厚生労働省は、健康保険の資格確認のオンライン化に向け「医療保険被保険者資格確認検討会」にて検討を2005年8月から行ってきました。
 2006年9月には、2次元コード(QRコード)をカード化した健康保険証の券面に装着するなどとする「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」を公表しました。

 その一方、上記にあるように、「医療・介護サービスの『質向上・効率化』プログラム(仮称)」の一部として、医療のIT化を進め、より高度なサービスを提供するための「健康ITカード(仮称)」の導入も検討していました。
 このカードを使えば、特定健診結果やレセプト内容の閲覧や、診察の際に持病やアレルギー、投薬の状況、各種検査の結果等について引き出せ、高額療養費等の申請手続きの簡素化、申請漏れの防止もできるなどとしています。

 また、「健康ITカード(仮称)」は、経済財政諮問会議において「成長基盤の効率化」の文脈で議論されていた点にも注意が必要でしょう。サービス向上だけが目的ではなかったのです。

 もちろん「健康ITカード(仮称)」実現されなかったわけですが、現在のマイナンバーカードよりも「多機能」かつ「便利」なものとして構想されていたようです。
 これらの文書には書いてありませんが、多機能化を図ることから「健康ITカード(仮称)」にはICカードが使われることは前提となっていたと思われます。
 また、「健康ITカード(仮称)」は、保険料の未納対策とともに、被保険者資格の確認にも用いることも想定されていましたから、厚生労働省が2007年7月9日に発した文書にあるように、2次元コード(QRコード)の利用の検討は中止されることとなったのです。

 なお、「健康ITカード(仮称)」の名称は、「骨太の方針2007」以降、政府のサイトには見あたらないようです。翌年の「骨太の方針2008」では「社会保障カード(仮称)の導入」となっています。

 このように健康保険証のカード化を巡る厚労省の方針は、2年程の極めて短い間にもかかわらず、「カード化し2次元コードを貼る。ICカードはオーバースペック」から「(ICカードを前提とした)健康ITカード(仮称)」、さらには「社会保障カード(仮称)」と、コロコロと変わっていったのです。無責任というか、時間と金の無駄というか・・・検討会などで交わされた議論は、一体全体何だったのでしょう。

2016年4月18日 (月)

マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした

 「『マイナンバーカードを健康保険証に』は、政府・与党連絡協議会が2007年に構想した社会保障カードが出発点」の続きです。

 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

 ※ 赤字強調は筆者

■厚生労働省「医療保険被保険者資格確認検討会」による「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」

 資格過誤によるレセプト返戻の解消方法等について検討してきた厚生労働省「医療保険被保険者資格確認検討会」(2005年8月に設置)が、2006年9月に「医療保険被保険者資格確認検討会の取りまとめについて」を公表(「表紙、目次、1~8ページ」(PDF)、「別添1~7、メンバー一覧」(PDF))

 資格過誤によるレセプト返戻を解消していくためには、

 被保険者証の記載内容が医療機関・薬局のレセプト作成用のコンピュータに自動的に転記される仕組みを導入すること(以下「被保険者証記載内容の自動転記化」という。)」とともに、「医療機関・薬局の窓口において患者が被保険者(又は被扶養者)として保険者のリストに登録されているかどうかをオンラインで照会できる仕組みを導入すること(以下「被保険者登録状況のオンライン照会」という。)が解決策となりうる。

としている。

◆被保険者証記載内容の自動転記化

 被保険者証記載内容の自動転記化については、

① まず、各保険者において、
・被保険者証を個人カード化し、
・その個人カードの券面に、被保険者証の記載事項の一部をコンピュータに簡便に読み取れるように加工したものを共通の仕様により装着する。

② ①を前提に、医療機関・薬局においては、個人カードに共通の仕様により装着された情報(被保険者証の記載事項の一部)を入力機器で読み取り、自動的にレセプト作成用のコンピュータ上の画面に転記する。
※ 被保険者証記載内容の自動転記化が有効に機能し、普及していくためには、被保険者証の上記情報の装着の普及が不可欠の前提条件となる。

 情報の装着の方式については、

 費用や取扱いの簡便さを比較すると、2次元コード(QRコード)が最も安価であることに加え、券面の印刷により装着ができるなど、取扱いが容易である。小規模の保険者を含めて、幅広くカード-の情報の装着を普及させていくためには、2次元コード(QRコード)が優れている。

としている。

 一方、ICカード化については、

 「IT新改革戦略」を踏まえ、医療・介護・年金等の公共分野において安全で迅速かつ確実なサービスの提供を推進するため、導入のあり方等について平成19年夏までに検討を行い、結論を得ることとされており、厚生労働省等において検討が始まったところである。今回の資格過誤によるレセプト返戻の解消対策だけを考えると、2次元コード(QRコード)が必要かつ十分な機能を有し、ICチップはオーバースペックであるが、医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカードが導入されるのであれば、このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる

とした。

◆被保険者登録状況のオンライン照会

 被保険者登録状況のオンライン照会については、

① 利用を希望する医療機関・薬局の照会用コンピュータと、各保険者が自ら又は委託により管理する被保険者の登録状況に関する照会対応用データサーバとをオンラインで結ぶ。

② 保険者は、照会対応用データを定期的(例えば1日1回)に更新し、サーバに登録する。

③ 医療機関・薬局は、患者の受診時に、随時、被保険者証(個人カード)に装着された情報を入力機器で照会用コンピュータに読み取って、アクセスキー情報を送信しオンラインで照会する。

④ 医療機関・薬局は、即時に、保険者における被保険者としての登録の有無等について、オンラインで回答を受ける。

といった仕組みを提案している。

 また、「この仕組みによって被保険者としての資格の有無そのものが確認できるのではなく、確認できるのは、あくまで直近時点での保険者における被保険者としての登録の有無のみであることに十分留意する必要がある」、「登録『無し』と回答があった患者が必ずしも資格喪失者であるとは限らず、窓口での事情確認等を行う必要がある。また、登録「有り」と回答があった場合でも、実際にはタイムラグ等により保険者がレセプトを受け取った時点での資格確認を行った段階で、資格無しと判断され、レセプトが返戻されることはありうる」とのオンライン資格確認の限界性も示している。

【解説】

 レセプトの返戻とは、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金、及び、国民保険団体連合会)に送ったレセプトが、記載内容に不備があるなどの理由により、医療機関に返戻されることです。
 その理由は様々ですが、「医療保険被保険者資格確認検討会」の資料などによれば、「資格関係誤り」を理由とする返戻は基金分(平成16年度)が約631万件(全レセプトの約0.789%)、国保分(平成15年度)が約246万件(同じく約0.456%)となっています。

 「資格関係誤り」の内訳を見ると、基金分(平成16年度)において最も多いのは「資格喪失後の受診(35.3%)」で、次が「記号・番号の誤り(19.6%)」となっています。資格喪失後の受診は、退職等により既に被保険者資格が喪失し、無効となっている健康保険証を医療機関に示し、診察を受けることです。医療機関は、審査支払機関に送ったレセプトが返戻されるまで、健康保険証が無効であることを知る術はありません。一方、記号・番号の誤りは、健康保険証からカルテやレセプトへの転記が、目視による手作業で行われている限りなくすことはできません。

 検討会は、インターネットを活用した「医療機関・保険薬局における受診時資格確認システム」を構築することで、こうした資格関係誤りのレセプトの縮減を図ろうというものでした。

 資格過誤によるレセプト返戻の解消対策だけであれば、2次元コード(QRコード)で必要かつ十分であり、ICチップはオーバースペックであるとしているところが面白いですね。
 もっとも「医療・介護・年金等を通じた総合的な機能を有するICチップを装着したカード」、要するに後の「社会保障カード」のようなものが導入されるのであれば、「このICカードに必要な機能を盛り込めば足りることとなる」としています。

 なお、「取りまとめ」が指摘しているオンライン資格確認の限界性は、現在検討されているマイナンバーカードを使った資格確認においても簡単には克服されるそうにはありません。

 下記の図は、「取りまとめ」に添付されている「概要」です。

484

485

 
 この「健康保険の資格確認のオンライン化構想」による2次元コード(QRコード)を付けたカードの計画はもちろん中止となりました。では、その後は社会保障カードかというと、そうではありません。
 厚生労働省は「健康ITカード(仮称)」の検討を2007年に行っていたのです。

2016年4月17日 (日)

「マイナンバーカードを健康保険証に」は、政府・与党連絡協議会が2007年に構想した社会保障カードが出発点

 マイナンバーカードに健康保険証としての機能を載せる話がいよいよ現実味を帯びていますが、こうした話の源流は「社会保障カード」構想にあります。

 ※マイナンバーカード 健康保険証の機能を載せることを前提にデザインされていた

 筆者が、社会保障カードについて検討するために、2009年頃に作成したノートが、手元に残っていましたので、以下、追記、修正をし、解説を付け掲載します。

■健康保険証にも使える社会保障カードを提案した政府・与党連絡協議会

 消えた年記録問題を受けて、政府と与党は、2007年7月5日に「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について」(PDF) http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/kanshi/pdf/070725_1-04.pdf を取りまとめた。

 「Ⅲ 新たな年金記録管理システムの構築」には次のような記述がある(赤字強調は引用者)。

 「今後、年金の記録を適正かつ効率的に管理するとともに、常にその都度国民が容易にご自身の記録を確認でき、年金の支給漏れにつながらないようにするため」として、「銀行通帳のような方式ではなく、個人情報を保護する観点から記載内容が他人に見られないよう十分なセキュリティ確保を行った上で、1人1枚の『社会保障カード』(仮称)を2011年度中を目途に導入するとした。

 また、「このカードは年金手帳だけでなく、健康保険証、更には介護保険証の役割を果たす。さらに、お年寄りなどご本人の希望があった場合には、写真を添付し身分証明書としてお使いいただけるものである。年金の記録については、窓口における年金記録の確認はもとより、自宅においても常時、安全かつ迅速に確認できるようになる。また、このカードは、基礎年金番号の重複付番の防止にも役立つものである」としている。

 【解説】

 当時の政府は第1次安倍内閣、与党は自民党、公明党。
 社会保障カードの目的は、年金記録を国民自ら確認させるためのもの。間違いを探すのも自己責任。
 なお、この文書には、2007年の公表当時、「社会保障カード(仮称)構想」との表題が付けられた「参考資料」などが添付されていましたが、現在、ネット上には見あたらないようです。仕方ありませんので、手元にあったものを画像ファイル(下図)として掲載しておきます。現在のマイナンバーカードとそっくりですね。
 480

 社会保障カードは、その後、2007年9月27日に厚生労働省に設置された「社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会」で議論されることとなったのですが、健康保険証をカード化する話自体は、この政府・与党連絡協議会において突然浮上したものではありません。
 厚生労働省は、連絡協議会前から健康保険証をカード化する検討を行っていました。

 続き → マイナンバーカードのもとである社会保障カードは、健康保険の資格確認のオンライン化構想からスタートした

2016年4月14日 (木)

「あなた 会社(学校)辞めますか、それともマイナンバーカード持ちますか」の恐怖の選択が今そこに  企業・学校での一括申請を薦める総務省

 以前、「マイナンバーのカードの一括申請、会社だけではなく、学校法人や医療法人、社会福祉法人、宗教法人でも可能に」と題した記事を書きましたが、総務省は「企業や学校等でのマイナンバーカードの一括申請」のリーフレット(PDF)を作り、ウェブサイトで公開しています。
 さて、どんなことが書かれているのでしょう。

■一括申請には、2つのやり方が

 まず、ウェブサイトの方ですが、こちらは「マイナンバーカードの交付・申請方式について」のところで、一般的な方法の説明のあとに、次の様に書かれています。

 このほか、企業や学校等でマイナンバーカード交付申請書を取りまとめ、個人番号カードの申請を一括して行うことができます。また、市町村と調整のうえ、企業や学校等に市町村職員が出向き、本人確認を行い一括して申請を受け付けることができます。

・ 企業や学校等でのマイナンバーカードの一括申請についてはこちら(リーフレット)PDF

478

 一方、リーフレット(PDF)はどうでしょう。上の方に「従業員や学生等が個人番号カードを取得するメリット」が書かれています。そして、その下には「交付までの業務フロー」として、一括申請の2つのやり方が書かれています。これは先に紹介したウェブサイトの記述を詳しくしたものです。
 市役所ではシステムの不具合などにより、交付が中々進んでいないようですから、受け取る側から見れば「case2」の方が楽で確実ですね。
 もっとも求められた市区町村にはたいへんな負担となるでしょう。はたして市区町村は、対応できませんと断ることはできるのでしょうか。

474_2
■一括申請のメリットを強調するリーフレット

 では、「従業員や学生等が個人番号カードを取得するメリット」は何でしょうか。リーフレットは、次の3点をあげています。

(1)現在発行している社員証・学生証を個人番号カードに一元化することが可能です。

(2)ICチップを活用して、個人番号カードに社員向け・学生向けの独自のサービスを搭載することが可能です。

(3)ICチップを活用して、従業員のマイナンバーの収集が必要な場面で、正確かつ効率的な収集を行うことが可能です。

 この記述の下には「個人番号カードの交付は個人の自主的な申請に基づくものです」という注意書きがあります。白々しいですね。
 (1)にあるように勤務先(通学先)が社員証(学生証)に一元化してしまえば、「私はマイナンバーカードはいりません。これまでの社員証(学生証)を使います」は許されないでしょうし、そうした主張も困難でしょう。「自主的な申請」など現実的にはあり得ません。

 結局、「会社(学校)辞めるか、マイナンバーカード持つか」を迫られることになります。

475_2

■マイナンバーカードのICチップを利用

 (1)の社員証・学生証への一元化は、カード券面の利用だけでも可能です。しかし、メリットの(2)はそれに飽き足らず、カード内のICチップの独自利用を図るものです。
 ICチップについては、下記の図(内閣官房社会保障改革担当室「マイナンバーの概要について H27.10.7講演資料」(PDF)17枚目より)を参考にしてください。

479_2
 ICチップの独自利用を総務省が具体的にどのように想定しているのかわかりませんが、例えば社員食堂の利用状況(料金請求、健康管理?)や、成績の記録(保護者への提供)などに使われるようになるかも知れません。

■「ICチップの民間開放」は法律上すでに可能に

 こうしたICチップの独自利用は、番号法18条2号の規定、及び、施行令18条2項の4項に基づくいわゆる「ICチップの民間開放」で実現されます。

 番号法

第十八条  個人番号カードは、第十六条の規定による本人確認の措置において利用するほか、次の各号に掲げる者が、条例(第二号の場合にあっては、政令)で定めるところにより、個人番号カードのカード記録事項が記録された部分と区分された部分に、当該各号に定める事務を処理するために必要な事項を電磁的方法により記録して利用することができる。この場合において、これらの者は、カード記録事項の漏えい、滅失又は毀損の防止その他のカード記録事項の安全管理を図るため必要なものとして総務大臣が定める基準に従って個人番号カードを取り扱わなければならない。
 
一 市町村の機関   地域住民の利便性の向上に資するものとして条例で定める事務
 
二 特定の個人を識別して行う事務を処理する行政機関、地方公共団体、民間事業者その他の者であって政令で定めるもの   当該事務

 番号法施行令

第十八条  略
 
2  法第十八条第二号の政令で定める者は、次に掲げる者とする。
 
 一 ~ 三 略
 
四  国民の利便性の向上に資するものとして総務大臣が定める事務を処理する民間事業者(当該事務及びカード記録事項の安全管理を適切に実施することができるものとして総務大臣が定める基準に適合する者に限る。)

■従業員みんながマイナンバーカードを持参すれば、番号集めも楽チンだよね

 メリットの(3)は勤務先、通学先が、番号法にもとづき個人番号関係事務実施者などとして従業員、学生(生徒)の個人番号を収集する際に、通知カードを持ってくる者や「住民票の写し(個人番号記載)」を持ってくる者がいると事務が複雑になりコストがかかる、しかし、全員がマイナンバーカード持参してくれるなら手間がかからずに便利かつ正確になりますよという話ですね。

 マイナンバーカードの交付の際にシステムの不具合等によって混乱が起きている現状では、一括申請されても市町村が対応できるのかどうかは不明です。
 しかし、混乱がいつまでも続くとは限りません。やがて収まれば、一括申請の実施に向け政府・総務省が、企業や学校等へに圧力をかけることも含め動き出すことは間違いないでしょう。
 マイナンバーで儲けている企業、儲けようと政府に尻尾を振りたい企業、国には逆らえない市役所・町村役場、逆らうのが困難な国立大学・学校あたりは狙い目になるでしょうね。

■マイナンバーカードを持たない自由は、もはや風前の灯火

 このまま行けば、先にも書いたように私たちは「会社(学校)辞めるか、マイナンバーカード持つか」の選択を迫られることになります。持たない自由は、もはや風前の灯火なのです。

 なお、マイナンバーカードを健康保険証にすることを政府は計画していますが、これを実現するためにも一括申請はなくてはならない「サービス」です。詳しくは後日あらためて。

 ※ 国家公務員には、既にマイナンバーカードを持たない自由は事実上ありません。

2016年4月11日 (月)

マイナンバーで海外資産の把握はやはり困難 -パナマ文書で首相が辞任したアイスランドにも番号制度はあった!

 アイスランドでは、パナマ文書により、グンロイグソン首相がタックスヘイブン(租税回避地)で巨額投資を行っていたことが発覚し、辞任に追い込まれました。

アイスランド首相が辞意を表明 『パナマ文書』で初の首脳辞任」(ハフィントンポスト)

 グンロイグソン氏は、妻と共同で2007年にイギリス領バージン諸島に会社を設立。アイスランドの大手銀行3行に投資していた。その後、2008年のリーマン・ショックで3銀行が破綻。グンロイグソン氏は2009年に国会議員に当選したが、自身の会社の持ち分を、妻に1ドルで譲渡していたが、保有資産として申告していなかったことが、この文書をもとにした報道で明らかになった。

アイスランド首相が正式辞任」(日経新聞 2016/4/8) 

 ・・・引用者略・・・

 グンロイグソン氏は英領バージン諸島に会社を設立し、巨額の投資を行っていた疑いが浮上。金融危機で痛手を負ったアイスランドの国民らが「財産隠しだ」と激しく反発し、辞任に追い込まれた。

 ところで、アイスランドには Kennitala という国民総背番号( Personal identification number )があり、納税者番号としても使われているようです。
 この番号制度があったにもかかわらず首相は、国民に知られることもなくタックスヘイブンに巨額の資産を置くことができたようです。

 日本の国税庁や麻生財務相が認めているように、マイナンバーのような番号制度で海外資産を把握することはやはり困難なようですね。

 こちらは、ネット検索で見つけた The Multicultural Centre の Kennitala の案内ページ。

Personal identification number (ID No.) | Identification Number | Administration | English | Fjolmenningarsetur

463

In a matter of speaking, the identification number is the key to the Icelandic society.

It is necessary to have been issued an identification number in order to register legal residence in Iceland, to get a tax card, open a bank account and to apply for a home telephone and internet connection.

 Kennitala は、住所登録をし、税カードの取得、銀行口座の開設、自宅への電話やインターネットの引き込みに必要なようです。

 こちらは OECD のサイトにある Kennitala に関するページ(PDF)

464

The Icelandic Identification Number (kennitala) is used as a TIN in Iceland. This number is a unique number issued to both individuals and entities.

・・・・・・・・・・・・

TINs are used for all taxes in Iceland.

と書かれています。TIN は Tax Identification Number いわゆる納税者番号のことですね。これがすべての「税」で使われていると。

 この情報が掲載されているのは OECD の Tax identification numbers (TINs) のページです。OECD 各国の納税者番号に関する情報が掲載されていて面白いですね(Russian Federation など情報の掲載されていない国も多いですが)。
 Japan (PDF)は、もちろん My Number です。当たり前ですが OECD はマイナンバーを納税者番号と認知しているのです。

 なお、Wikipedia によると Kennitala は1983年からあるもので、国民番号制度としては3代目のようです。初代の Birth number は1953年にスタートしたと書かれています。

 現行の番号制度さえ30年以上前から始まっているにもかかわらず、1975年生まれのグンロイグソン首相の海外資産は把握できていなかったようです。
 もっともアイスランドの国税当局は知っていたが、国民は知らなかったという可能性もあります。しかし、冒頭のハフィントンポストの記事では「保有資産として申告していなかった」とありますから、やはり国税当局は、本人から申告されていなかったので、番号制度があってもわからなかったのでしょう。
 

2016年4月10日 (日)

パナマ文書でタックスヘイブンが話題になっておりますが、国税庁も麻生財務相も、マイナンバーによる海外資産・取引情報の把握には限界があると申されております

タックスヘイブンとマイナンバーの関係については、拙著『マイナンバーはこんなに恐い!』でも言及しています。

473

 タックスヘイブン(租税回避地)に関する「パナマ文書」が話題になっていますが、よもや「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)があれば、こんな租税回避という名の不正はできないぞ」と勘違いされている方はいらっしゃらないとは思いますが、念のため、国税庁の見解を以下載せておきます。

◆個人番号を利用しても「海外資産・取引情報の把握には限界」と国税庁ウェプサイト

国税庁「社会保障・税番号制度の概要について」   ※ 赤字強調は引用者

社会保障・税番号制度の概要

(1) -引用者略-

(2) 国税分野での利活用

 国税分野においては、確定申告書、法定調書等の税務関係書類に個人番号・法人番号が記載されることから、法定調書の名寄せや申告書との突合が、個人番号・法人番号を用いて、より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上し、適正・公平な課税に資するものと考えています。
 他方で、個人番号・法人番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があり、個人番号・法人番号が記載された法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。

 大事なことなので、もう一度。

「個人番号・法人番号を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があり・・・」

458_2

◆国税庁レポートは「海外資産、取引の把握は困難であることに留意せよ」とありがたいお言葉

 ついでにもう一つ。
国税庁レポート 2015」(PDF)49頁 ※ 赤字強調は引用者

Ⅴ 納税者利便の向上と行政効率化のための取組

1 社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の導入

(3)個人番号及び法人番号の利活用機関としての対応

 -引用者略-

~ 所得把握の適正化・効率化 ~

 国税分野では、申告書、法定調書等の書類に番号が記載されることから、法定調書の名寄せや申告書との突合が、より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上するものと考えています。もとより、事業所得や海外資産・取引情報をはじめ、法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、番号を利用しても全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。

 大事なことなので、もう一度。

「事業所得や海外資産・取引情報をはじめ、法定調書だけでは把握・確認が困難な取引等もあるため、番号を利用しても全ての所得を把握することは困難であることに留意が必要です。」

459

◆海外資産・取引の把握、最初からマイナンバーでは無理とわかっていた

 もちろんこうした「マイナンバーでもタックスヘイブンはどないもでけへんわ」という「見解」は、国税庁だけのものではありません。マイナンバー制度創設のもとになった「社会保障・税番号大綱」(PDF)にも書かれています。 18~19頁  ※ 赤字強調は引用者

5.番号制度の可能性と限界・留意点

(1)番号制度の可能性

 -引用者略-

(2)番号制度の限界

 一方、そのような制度改革と併せても、全てが完全に実現されるわけではない。例えば、全ての取引や所得を把握し不正申告や不正受給をゼロにすることなどは非現実的であり、また、「番号」を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある。
 しかし、これら全てが完全には実現できないにしても、番号制度の導入と制度改革による一定の改善には大きな意義がある。

 大事なことなので、もう一度。

「『番号』を利用しても事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界があることについて、国民の理解を得ていく必要がある。」

 要するに「マイナンバーでもタックスヘイブンはどないもできんわ。そんなことぐらいお前らわかるやろ」ということですね。

 「社会保障・税番号大綱」(PDF)は、2011年6月30日に政府・与党社会保障改革検討本部によって決定されています。民主党政権(菅内閣)の時代です。
 では政権が自民党に代わった際に、この「見解」が否定されたのかというと、冒頭で示したように国税庁のウェプサイトに同様の記述がいまもありますから、否定されたわけではありませんね。継承されていると見た方が良いでしょう。

◆安倍政権も、マイナンバーによる「海外資産、取引の把握には限界」と認めている

 そこで国会の議事録を政権交代後(2012年12月以降)に限って検索してみると。
 2013年4月3日の衆議院内閣委員会での村上史好議員(生活の党)の質問と政府側の答弁から一部引用します。
 ※ 赤字強調は引用者

○村上(史)委員 ・・・(本会議の)答弁で、社会保障・税番号制度は、より公平な社会保障制度や税制の基盤となると答弁される一方で、社会保障・税番号大綱には、番号制度を導入しても、全ての取引や所得を把握し、不正申告あるいは不正受給をゼロにすることなどは非現実的である、また、番号を利用しても、事業所得や海外資産、取引の情報の把握には限界があると明記されております。・・・政府として、この番号制度の限界に対する対応はどのように考えておられるのか、お尋ねします。

○甘利国務大臣 完璧に全ての所得を捕捉するということになりますと、いろいろとコストも膨大になるでしょうし、国民がそんなところまでという支持をするかどうか。・・・

・・・

○村上(史)委員 ということは、先ほど申し上げましたけれども、海外資産等の把握は今後ともやっていく、いずれやっていくということでよろしいんでしょうか。

○向井政府参考人 海外資産の把握につきましては、物事の性質上、なかなか難しい面もございます。・・・

 政権が自民党に交代しても、「出来ないものは出来ない」ということのようです。

 またまた、ついでにもう一つ。

 2013年5月23日の参議院内閣委員会 藤本祐司議員(民主党・新緑風会)の質問に対する政府側の答弁から一部引用します。  ※ 赤字強調は引用者

○大臣政務官(伊東良孝君)・・・所得の把握の正確性が向上し、適正、公正な課税に資するものということになるわけでございます。
 しかしながら、他方で、この番号を利用しましても、事業所得やあるいは海外資産、取引情報等々に関しましてはおのずと限界がある話でございまして、番号が記載された法定調書だけでは把握、確認が困難な取引などもたくさんあるわけでございます。・・・

◆麻生大臣も「海外での所得の把握には一定の限界」と国会答弁

 さらに麻生太郎財務大臣も、2015年5月21日の参議院財政金融委員会にて、尾立源幸議員(民主党・新緑風会)の質問に対して  ※ 赤字強調は引用者

○国務大臣(麻生太郎君) ・・・マイナンバー導入後も、例えばいわゆる国外、海外での所得とか、またマイナンバーが付されていない預貯金口座というものの存在など、所得、資産というものの把握にこれは一定の限界は残るものというのはもう確かだと思いますけれども・・・

 麻生財務相のお考えは「マイナンバー入れても、海外の所得なんかわかるわけないでしょ」ということですね。
 タックスヘイブンに資産を預けている人は、マイナンバーは関係なしなのです。良かったですね。だから大金持ちのみなさんはマイナンバーに反対しないのでしょう。

 さすがにこれは考えすぎだとは思いますが、ひょっとすると国税庁や政府が「マイナンバーで海外資産の把握は困難」と繰り返しアナウンスして来たのは、大金持ちのみなさんが自分たちの資産も把握されるのかと「誤解」してマイナンバー制度に反対するのを防ぐためなのかも知れません。

 ところで、国税庁が言うマイナンバーで「より正確かつ効率的に行えるようになり、所得把握の正確性が向上し、適正・公平な課税に資するものと考えています」の具体的中身はなんでしょう。長くなってしまいましたので、この件については、またあらためて後日・・・

 なお、パナマ文書で首相が辞任したアイスランドにもマイナンバーと同様の番号制度があります。しかし、アイスランドの国税当局は首相の海外資産について把握できていなかったようです。

« 2016年3月 | トップページ | 2016年5月 »