マイナンバーの登場で、住基ネットは終わったのか? 本当に「無駄」だったのか?
マイナンバーが始まったことに関連して、「住基ネットはたいして使われることもなく終了した」と勘違いしている人が散見されますが、これは事実でしょうか。
※ 一例「血税1兆円をドブに捨てた『住基ネット』 ~元祖マイナンバー、あれはいったい何だったのか?」(週刊現代、2016年1月28日)
■総務省は、住基ネットは「番号制度を支える基盤」と説明
総務省自治行政局住民制度課住民台帳第二係長がLASDEC(マイナンバーを管理している地方公共団体情報システム機構[J-LIS]の前身)の月刊誌(2014年2月号)に寄せた論文「番号制度の導入と住民基本台帳事務等について」(PDF)には、下記のように 「住基ネットが番号制度を支える基盤となる」とあります。住基ネットは終わったとか廃止とか、どこにも書かれていません。
番号法の制定に伴い、個人に個人番号が付番されることとなるが、個人番号は、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)で使用する住民票コードを変換して生成されるものである。このように、住基ネットが番号制度を支える基盤となるなど、番号制度は住民基本台帳事務と密接に関わるものであり、番号整備法において、住民基本台帳法や公的個人認証法等も改正がなされている。番号制度は住民基本台帳事務や公的個人認証サービスの電子証明書発行等の窓口事務にも影響を与えることとなり、制度導入のために各地方公共団体においてもシステム整備等の準備が必要となる。
この論文には「社会保障・税番号制度のイメージ」が掲載されていますが、図を見ると住基ネットがきちんと位置づけられていることがわかります。
■マイナンバーの個人番号は、住民票コードから生成
マイナンバー制度の個人番号は、この論文にあるように「住民票コードを変換して生成」されています。住民票コードは住基ネットのシステムによって付番されていますから、住基ネットがなければ、個人番号は付番されないのです。2015年10月5日に住民票のある全ての人に対して、住民票コードから生成した個人番号が付番されました。
論文の「②個人番号の初期一斉指定」のところに書かれています。
市町村長は、施行日(27年10月を想定)において、既に住民票コードが記載されている者に対して一斉に個人番号を指定(以下「初期一斉指定」という。)する(番号法附則第3条)。
では、一斉指定が終われば住基ネットは「お払い箱」かというとそんなことはありません。6日以降に生まれた人や、日本にやって来た中長期在留外国人などについては、住民票が作成されると同時に住民票コードが付番され、住民票コードをもとに個人番号も付番される――住民票に記載される――のです。ですから、個人番号を付けるという点だけでも、住基ネットはマイナンバー制度にとって必要不可欠なのです。
論文の「③施行日以後の個人番号の指定」には、このことが書かれています。
住民票コードの記載については現行の方式が維持されるが、施行日以後の個人番号の指定については、市町村長が住民票に住民票コードを記載した後、当該住民票コードをもって機構に対して個人番号とすべき番号の要求を行い、当該住民票コードに対応する個人番号とすべき番号を機構が提供する方式(コール&レスポンス方式)で行われることとなる(番号法第8条)。
■行政機関等に基本4情報を提供するのは、今後も住基ネット
また、住民票に記載された最新の住所、氏名、性別、生年月日と、これらの異動情報を行政機関等に提供できるのは、住基ネットだけです。マイナンバー制度がスタートした後も、住基ネットはこの役割を担い続けるのです。このことは図を見れば分かります。図にある4情報とは、住所、氏名、性別、生年月日です。ただし、4情報(基本4情報)の提供に際し、使われるキーは、これまでの住民票コードから個人番号に変わります(論文の⑤本人確認情報に個人番号を追加)。
現在、国の行政機関等に対して、住民票コードを検索キーとして基本4情報の提供を行っているところ、個人番号を検索キーとして行うこととするものである。このことにより、機構は、国の行政機関等が個人番号カード等から個人番号を取得できない場合等に、個人番号を提供する役割を担うこととなる。
要するに住基ネットは「番号制度を支える基盤」として、今後とも必要不可欠なシステムと位置づけられているのです。ですから、こうした意味では住基ネットは無駄にはなっていないと言えます。
では、論文にある「現在、国の行政機関等に対して、住民票コードを検索キーとして基本4情報の提供」している件数はどれくらいなのでしょうか。
総務省のサイトのページ「住基ネットはどのように役に立っているの?」に「地方公共団体情報システム機構における本人確認情報の提供状況に関する公告」として数字が掲載されています。
■基本4情報の提供件数は、1年間に5億7800万件。今後、さらに増加へ
これによれば、例えば平成26(2014)年8月から翌年7月までの1年間の提供件数(PDF)は、延べ5億7835万890件となっています。人口の5倍近い数字です。そのうちの大部分を占めるのは日本年金機構への提供で、約5億4千万件(93%)です。
これは年金加入者、受給者の現況確認(住所異動や生死などの確認)を行うためです。国家公務員や地方公務員の共済組合、日本私立学校振興・共済事業団へも同様の事務を行うために提供されています。
もちろん年金事務だけではありません。例えば「建設業法による監理技術者資格者証の交付に関する事務」のために建設業法第27条の19第1項に規定する指定資格者交付機関には、年間約19万件提供されています。
また、住民が転出・転入する際に、住民票に記載された情報の転出地市町村から転入地市町村への提供にも使用されています。総務省は2014年度実績として約430万件としています。
※参考 総務省「住基ネットの利用状況の概要」(PDF)
このように住基ネットは、“立派”に利用されてきた――住基ネットの是非は別にして現実的には――のです。使われていないというのは、誤解に過ぎません。
もちろん基本4情報の提供は、年金事務での現況確認などが必要である限り、マイナンバー制度が始まっても終わりません。
むしろ論文にあるように「国の行政機関等が個人番号カード等から個人番号を取得できない場合等に、個人番号を提供する役割を担う」わけですから件数は、さらに増えることになるでしょう。例えば、これまで住基ネットからの基本4情報の提供を受けることが出来なかった国税庁(税務署)も、マイナンバーの根拠法である番号法の制定にともなって、住民基本台帳法が改正されたことにより、提供を受けることが可能となっています。
■政府が利用拡大を目指している公的個人認証でも、住基ネットは必要不可欠
また、公的個人認証の電子証明書の発行や失効管理にも住基ネットは使われます。上記の図にも、「連動」との文字が見られます(左下)。
電子証明書は、これまで希望者についてのみ住基カードに収納されてきました。しかし、マイナンバー制度では、交付される全ての個人番号カードにあらかじめ収められており、民間事業者も使用可能とするなど、より広範な利活用が想定されています。
住基ネットは、個人番号カードを利用した公的個人認証を続ける上でも、必要不可欠なのです。
※ 参考にどうぞ
総務省作成資料(平成26年3月27日)「公的個人認証サービスの民間拡大について」(PDF)に収められている図「民間サイトでの公的個人認証サービスの利用イメージ」
■住基カードの普及が5%と低迷しているのは事実、しかし住基ネットが使われていないは誤解
では、住基カードはどうでしょうか。総務省が示している「住民基本台帳カードの交付状況」(PDF)によると2015年3月末時点での累計交付枚数は約920万枚です。そのうち有効交付枚数は約710万枚と、人口のわずか5%程度です。利用は極めて低調です。
「住基ネットは無駄だった」は、おそらくこの住基カードの普及具合を念頭に置いた感想なのでしょう。しかし、住基カードの普及がどれだけ低調であったとしても、住基ネットは使われていないは誤った認識であることは間違いありません。
現在、政府は、この住基カードの低調ぶりを教訓に、マイナンバーの個人番号カードの多目的利用――例えば国家公務員の身分証に使う、クレジットカード・キャッシュカードの機能を付ける、健康保険証にするなど――を早急に進めようと非常に力を入れています。
マイナンバー制度に反対するならば、住基ネットが果たして来た役割や、マイナンバー制度との関係などを正しく知ることが必要でしょう。一部に根強くある「住基ネットは使われないまま終了」といった誤った認識は、マイナンバー制度を中止し廃止させる運動を進めていく上で、一刻も早く正す必要があるのではないでしょうか。