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2015年7月24日 (金)

【続々】DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?

    簡単に言うと

  • 総務省自治行政局住民制度課課長補佐が、マイナンバーを取り仕切るJ-LISの月刊誌で、居所が住民票と異なるDV等被害者については、登録してもらえれば、居所に通知カードを送ると書いた。
  • 送付先変更の登録には、住所地市区町村への申請書の提出が必要。申請の際に「DV等被害者であることを証する書類」を求められることもあるような記述だが、詳細はまだ不明。
  • 取組が進んでいることは評価できる。しかし、市町村の準備は整うのか、また、対象とする人たち、困っている人たちに情報は正しく届くのだろうか。記事には「7月以降に周知」とあるがもう下旬だ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 本稿は「DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?」、「【続報】DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?」の続きである。

  → 総務省が、DV被害者等への通知カードの送付先変更の案内ページを開設

■「やむを得ない事情により居所に住所を異動することができない」DV等被害者については、登録した居所に通知カードを送付と、総務省自治行政局住民制度課課長補佐

 「『社員のみなさん、マイナンバーカードの交付申請は会社で一括しますのでよろしく』もありに (1)」で紹介した地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の月刊誌「月刊J-LIS ―地方自治情報誌―」2015年7月号に掲載された記事「個人番号の通知と個人番号カードの交付における留意点 ―個人番号の通知と個人番号カードの交付に関する事務処理について」(総務省自治行政局住民制度課課長補佐 内海隆明)(https://www.j-lis.go.jp/data/open/cnt/3/1282/1/H2707_05.pdf)には、「(3)個人番号の通知に関する事務処理」の項に、通知カードの送付先に関して次のような記述がある。

 送付先は、基本的に住民票の住所を市区町村から機構に登録し、転送不要として郵送するが、①東日本大震災による被災者でやむを得ず避難先で避難生活を送っており、当該避難先に住所を異動することができない者や、②DV等被害者で、やむを得ない事情により居所に住所を異動することができない者については、一定の配慮をし、居所(避難先)を登録してもらい、そこに送付することを予定している(別紙⑤参照)。

■送付先変更には、住所地の市区町村への申請書の提出が必要

 別紙の⑤「★住所地以外の居所に住む被災者、DV等被害者への通知カードの送付方法」は、「考え方」として、「DV等被害者の中には、住民票を置いたまま住所地以外の場所(避難先)に移動(避難)していて、通知カードが送付される時点では住所地において通知カードを受け取れないことも想定される」ので、「番号法施行日までに当該居所に住所を異動していただくことが基本」としつつも、「しかしながら、DV等被害者で、やむを得ない事情により居所に住所を異動することができない者、については、一定の配慮をし、居所(避難先)に送付することとする(居所を登録してもらう)。」としている(下図⑤―1)。

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 居所情報の住所地市区町村への登録は「申請書(氏名、居所、やむを得ない事由等を記載)を住所地市区町村に郵送してもらう」ことで行い、「登録された居所情報をもとに、J-LISが居所に通知カードを送付する」としている(下図⑤―2)。
 また、例外として「住所地市区町村の役所・役場の所在地に一旦留め置き、住所地市区町村が本人に送付することも可」ともある。

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 記事には、この場合の送付フローの図も掲載されている(下図⑤―5、6)。

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■「DV等被害者であることを証する書類」の提出が必要なのかは、はっきりせず

 これらの図で気になるのは、「①自ら居所情報を登録(申請書等を郵送)」のところに「※DV等被害者であることを証する書類の提出を求めてもよい」との文言があることだ。
 求めるかどうかの判断は、住所地市区町村に委ねられるという意味なのだろうか。ある市では必要ないとするが、別の市では必要だと、そういうことを国としては許容するということなのだろうか。

 とにかくよくわからないのだが、そもそも「DV等被害者であることを証する書類」とは如何なるものなのか。「DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?」で紹介した「住民基本台帳法上の支援措置」を求めるために必要とされる書類のことを指しているのだろうか。もし、そうなら「住民基本台帳法上の支援措置」を認められていない者は、居所への通知カードの送付の措置を受けられないことになってしまう。

 また、図にある登録に必要とされる「送付場所の確認のための資料」もどのようなものなのだろう。

■「7月以降に周知」とあるがもう下旬、間に合うのか

 図⑤―2には「趣旨、登録の方法、様式、時期などについて、国・都道府県・市区町村が協力して7月以降に周知(予定)」とあるものの現時点では、これらの資料や書類が何であるかは全くわからない。
 さらに言えば、「DV等被害者」の「等」にはどのようなものが含まれるのかも、この文書からは不明である。おそらくストーカーや児童虐待は含まれるのだろうが、闇金等から逃げている場合などは対象となるのか。わからないことだらけだ。

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■個人番号カードの交付、DV等被害者への対応も予定

 なお、雑誌記事の別紙⑧―1「個人番号カードの申請・交付方式(案)」(下図)には、「③申請時来庁方式(被災者・DV等被害者対応)」も5つの方式のうちの1つとしてあげられており、「交付業務フロー」も掲載されている(下図⑧―4)。

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 この住民制度課課長補佐の記事から、政府の取組が少しは前進しているようには見える。しかし、もう7月下旬である。番号の通知カードが配られるまで2ヶ月少しだ。はたして、市町村の準備は整うのか、また、対象とする人たち、困っている人たちに情報は正しく届くのだろうか。

2015年7月21日 (火)

「社員のみなさん、マイナンバーカードの交付申請は会社で一括しますのでよろしく」もありに (3)

 さて、本稿の冒頭で「この件については全く気が付かなかった」と書いたが、これはどういうことか。実は、「勤務先企業等による一括申請方式」は、以前の政府の文書にも書かれていたのだ。しかし、今日まで、それに全く気付かなかったのだ。

■昨年11月、IT総合戦略本部分科会に提案

 ネットを検索して見つけることが出来た最も古いものは、IT総合戦略本部のマイナンバー等分科会の第6回会合(2014年11月11日)に、総務省自治行政局住民制度課が提出した資料「個人番号カードについて」(PDF https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/number/dai6/siryou4.pdf)だ。
 その2頁の「個人番号カードの様式、申請・交付(案)」(下図)の右下に小さく「申請時に来庁する方式や、企業において交付申請をとりまとめる方式など、多様な交付方法を用意する」とある。筆者が気付く半年以上前に、既に公表されていたのだ。
 しかし、これに気付いた国民は、政府や自治体などのマイナンバー担当者を除けば何人いるのだろうか。

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 ところで、現在、内閣官房のマイナンバーの解説サイト(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/)にある「ご自由にダウンロードしてお使いいただける資料です」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/kouhousiryoshu.html)からは、様々な広報資料がダウンロードできるようになっている。
 ここから得られる資料には「企業において交付申請をとりまとめる方式」についての案内はあるのだろうか。

■大規模事業者向け資料には、企業による取りまとめ方式が

 まず、「一般の方向け」として掲載されている、平成27年5月の日付が入った「広報資料の全体版(13ページ)」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/download/summary_zentai.pdf)を見てみると、「個人番号カードの様式、申請・交付(案)」と同様の図はなく、7頁に「市町村長は、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする。(第17条第1項)」とあるだけだ。
 一方、「マイナちゃんのマイナンバー解説」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/download/20150522_kaisetu.pdf)の11頁(ただし本文には書かれていない)には、マイナンバー等分科会に提出された資料と同じ「個人番号カードの様式、申請・交付(案)」の図が掲載されている。もっとも、この資料がいつから、内閣官房のマイナンバーの解説サイトにて公表されていたのかはわからない。

 次に「中小規模事業者向け」とされる資料だが、ここには同様の図を載せたものは一切ない。

 ところが、大規模事業者向けとされる資料のうち、平成27年5月の日付が入った「詳しい説明文入りの資料(35ページ)」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/download/jigyou_siryou.pdf)の7頁には、この図が、そのまま載せられているのだ。

 「勤務先企業等による一括申請方式」は、中小規模事業者ではなく、大規模事業者を想定したものだということなのだろうか。政府の意図は、よくわからない。

■マイナンバーでも、国民に知らせず暴走する安倍政権

 どちらにしても、事実上「カード取得の強制」となる可能性が大きい「勤務先企業等による一括申請方式」を政府が用意するとしていることを、ほとんどの国民が知らないのは間違いのない事実であろう。
 安倍政権は、マイナンバーにおいても、国民に情報を正しく知らせることなく、ひたすら暴走しているのだ。

←(2)に戻る

「社員のみなさん、マイナンバーカードの交付申請は会社で一括しますのでよろしく」もありに (2)

 さて、この個人番号カードの「勤務先企業等による一括申請方式」には、どのような問題があるのか。

■勤務先が一括方式をとれば、カード取得は強制に?

 番号法は、個人番号カードの取得を国民等の義務とはしていない。あくまでも任意である。にもかかわらず、勤務先で一括申請となれば「私は必要ありません」「交付を望みません」が果たして通用するのだろうか。もちろん自由な気風の企業であれば、断っても何らの問題もないであろう。
 しかし、ブラック企業でなくても、日本の企業体質を考えれば、従業員に「なぜ、君は申請しないのか」「何か問題があるのか」との圧力がかかるのは、火を見るよりも明らかであろう。
 特に雇用が不安定な派遣労働者や非正規従業員にとっては、断ることは極めて勇気のいる話であろう。こうしたやり方は、事実上の「カード取得の強制」となるのではないだろうか。

■個人番号カードの社員証、一括方式で実現?

 ところで、政府は6月30日に閣議決定した「日本再興戦略 改訂2015」において、個人番号カードを、2016年1月から国家公務員身分証との一体化を進めるとともに、地方自治体や国立大学等の職員証や民間企業の社員証等での利用を2017年度以降での利用の実現へむけ検討するとしている(「マイナンバーの戸籍や旅券での利用や、個人番号カードのクレジットカードとしての利用も ―日本再興戦略 改訂2015」参照)。

 国家公務員や地方公務員なら、法令等により全員に個人番号カードを持たせることは可能かも知れない。が、民間企業の場合どうするのか甚だ疑問であった。
 しかし、「勤務先企業等による一括申請方式」を利用することができれば、全従業員にカードを持たせ、それを社員証として利用させることも可能となろう。もちろん、従業員の「私はいりません」の声を無視してなのだが。

■一括方式は「勤務先」だけで収まるのか?

 問題はさらにある。「勤務先企業等」の「等」には何が入るのかだ。
 単純に考えれば、勤務先が企業ではなく、一般社団法人や財団法人、医療法人、学校法人などの場合も含めるという意であろう。
 しかし、うがった見方をすれば、勤務先ではなく、入所している介護施設などの福祉施設も含まれる可能性があるのではないか。政府の方針は、個人番号カードを健康保険証としても使えるようにである。健康保険証は福祉施設では必要不可欠であろう。
 であるなら、「等」に介護施設などが含まれると政府が言い出す可能性は大きいのではないか。この場合も「私はいりません」の声は無視されることになる。

■番号法にも施行令にも「勤務先企業等による一括申請方式」の規定はない

 ここまで読んできた人の中には、番号法に「勤務先企業等による一括申請方式」など、そもそも規定されていたのかと訝しがる人もいるであろう。

 番号法を見てみると

第十七条  市町村長は、政令で定めるところにより、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする。この場合において、当該市町村長は、その者から通知カードの返納及び前条の主務省令で定める書類の提示を受け、又は同条の政令で定める措置をとらなければならない。

とあるだけだ。

 また、マイナンバー法施行令には、

第十三条 個人番号カードの交付を受けようとする者(以下この条及び附則第三条において「交付申請者」という。)は、総務省令で定めるところにより、その交付を受けようとする旨その他総務省令で定める事項を記載し、かつ、交付申請者の写真を添付した交付申請書を、住所地市町村長に提出しなければならない。
2 住所地市町村長は、前項の規定による交付申請書の提出を受けたときは、交付申請者に対し、当該市町村の事務所への出頭を求めて、個人番号カードを交付するものとする。
 (以下略)

と、当該市町村の事務所、すなわち市役所等で交付するとなっており、「勤務先企業等による一括申請方式」は規定されていないのだ。

 にもかかわらず、この総務省自治行政局住民制度課課長補佐名による雑誌記事には、この方式が堂々と書かれているのだ。一体全体どういうことなのか。このまま「勤務先企業等による一括申請方式」を実行すれば、施行令違反となってしまう。
 もっとも憲法をも蔑ろにする安倍政権であるから、この程度の暴走はたいしたことないということなのだろうか。

←(1)に戻る (3)に続く→

「社員のみなさん、マイナンバーカードの交付申請は会社で一括しますのでよろしく」もありに (1)

    簡単に言うと

  • マイナンバーの事務を行うJ-LISのサイトに掲載された資料に、個人番号カードの交付申請のやり方の1つとして、勤務先企業等が従業員の申請を取りまとめ一括して行う「勤務先企業等による一括申請方式」が書かれている。
  • 勤務先企業が一括申請方式をとれば、従業員にとってカード取得は事実上強制になる可能性が大きい。政府の方針である「個人番号カードを社員証として使う」ためには、この方式が有効であろう。
  • IT総合戦略本部のマイナンバー等分科会での議論がもととなっているが、「勤務先企業等による一括申請方式」の規定は、番号法にも施行令にもなく、国民のほとんどは知らない。
  • 安倍政権は、マイナンバーにおいても、国民に情報を正しく知らせることなく、ひたすら暴走しているのだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 今日、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の公開資料を見ていて、とんでもないことを政府が考えていることに気付いた。日頃からマイナンバーに関する政府の発表資料については目を通すようにしていたのだが、たいへん重要なことであるにもかかわらず、この件については全く気が付かなかったのだ。迂闊としか言いようがない。

 J-LIS(https://www.j-lis.go.jp/index.html)は、地方公共団体情報システム機構法に基づき設けられた組織であり、マイナンバーに関する事務を一手に行うことになっている。
 また、J-LISは、地方自治体向けに月刊誌「月刊J-LIS ―地方自治情報誌―」を発行しているのだが、掲載記事のうちマイナンバーに関するものについては、現在、ウェブサイトで公開されている(https://www.j-lis.go.jp/bangoseido.html)。

■総務省の課長による、個人番号カードの交付に関する一文

 2015年7月号の特集テーマは「番号制度に向けた自治体の取組み」なのだが、それらの記事5本もPDFで公開されている。そのうちの「個人番号の通知と個人番号カードの交付における留意点 ―個人番号の通知と個人番号カードの交付に関する事務処理について」(総務省自治行政局住民制度課課長補佐 内海隆明)を読んでみた(https://www.j-lis.go.jp/data/open/cnt/3/1282/1/H2707_05.pdf)。

 これまで公開されていなかった情報が色々と書かれているのだが、読んでいて一番驚いたのは、3枚目(24頁)の「(4)個人番号カードの交付に関する事務処理」に書かれた次の一節だ。

 個人番号カードの交付方法としては、機構(引用者―「J-LIS」のこと)が作成して市区町村に送付する交付通知書に、市区町村において来庁期限を記載し、交付準備が整い次第それを本人に送付して、市区町村窓口に来庁してもらう交付時来庁方式が原則であるが、カードの交付申請時に来庁する方式や、企業においてカードの交付申請を取りまとめる方式など、多様な方式を用意することとしている(別紙⑧参照)。

■寝耳に水の「勤務先企業等による一括申請方式」

 これまで、個人番号カードは、申請者本人が市役所(区役所・町村役場)に出向いて交付を受けるものとばかり思っていた。
 実際、内閣官房のマイナンバーの解説サイトのQ&A Q3-9(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/faq/faq3.html)には「個人番号カードの交付を受ける際は、原則として、ご本人が市区町村の窓口に出向いていただき、本人確認を行う必要があります。ただし、病気や障害などによりご本人が出向くことが難しい場合は、ご本人が指定する方が代わりに交付を受けることができます。(2014年6月回答)」と、本稿執筆時点においてもそう書かれている。

 しかし、「月刊J-LIS」2015年7月号には「企業においてカードの交付申請を取りまとめる方式など、多様な方式を用意する」とあるのだ。少なくとも私にとっては、こんな話は寝耳に水である。交付申請を取りまとめる「企業」とは何のことなのか。

 先の記事で参照先としてあげられている別紙⑧には6つの図が掲載されている。
 その1枚目である⑧―1(下図)には「個人番号カードの申請・交付方式(案)について」として、これまでの「①交付時来庁方式」に加え、「④勤務先企業等による一括申請方式」と「⑤勤務先企業等による一括申請方式(勤務先企業等に職員が出向き一括申請受付)」が示されている。「企業」とは「勤務先企業」の意味だったのだ。

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 そして別紙⑧―5には「④勤務先企業等による一括申請方式」についての、⑧―6には「⑤勤務先企業等による一括申請方式(勤務先企業等に職員が出向き一括申請受付)」についての業務フローが図示されている。

■これまで説明されてきたのは「交付時来庁方式」

 勤務先企業等による一括申請方式について検討する前に、まず、これまで説明されてきた⑧―1(下図)の「①交付時来庁方式」を確認してみる。

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 図の一番下には「事業者」とある。これは何か。本文中には説明がないが、J-LISがカード発行に係わる事務を委託した企業であろう。

 事業者はJ-LISから国民等(住民登録のある国民と在留外国人)のデータを受け取り、通知カードと交付申請書を作成し、国民等に郵送する。
 個人番号カードの交付を希望する国民等は申請書に必要事項を記入し、事業者に返送する。事業者は個人番号カードを発行し、申請者の住所地の市役所等(市・区役所、町村役場)に送付する。
 市役所等が申請者に交付通知書を送付し、申請者は届いた通知書を市役所等の窓口に持参し、個人番号カードを通知カードと交換し、受け取る。その際にカードへの暗証番号の設定も行う。こういう流れになる。

■「勤務先企業等による一括申請方式」とは?

 では、⑧―5(下図)の「④勤務先企業等による一括申請方式」にするとどうなるか。国民等は個人番号カードの交付申請書を事業者に返送するのではなく、「勤務先企業等」が別途交付申請書を社員に配付し、必要事項を記入させた上で、事業者に送付することになる。
 以降については「①交付時来庁方式」と同じである。

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 もう一つの⑧―6(下図)の「⑤勤務先企業等による一括申請方式(勤務先企業等に職員が出向き一括申請受付)」ではどうか。
 この場合は、住民が市役所等に行くのではなく、勤務先企業の所在地の市役所等の職員が勤務先に出向き、その場で本人確認をした上で交付申請書を書かせることになる。その際に、通知カードは回収され、国民等(従業員)に暗証番号設定依頼書に暗証番号を書かせるのだ。
 申請書と依頼書は市役所等から事業者に送られ、事業者はカードを発行し、勤務先企業の所在地の市役所等に送付する。住所地の市役所等ではない。
 そして、勤務先企業の所在地の市役所等は、申請した国民等にカードを直接、本人限定受取郵便等で送付する。住所地の市役所等に取りに行く必要はないのだ。

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 (2)に続く→

2015年7月17日 (金)

【続報】DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?

  → 総務省が、DV被害者等への通知カードの送付先変更の案内ページを開設

■DV等の被害者への通知カード送付先変更 横浜市も案内

 当ブログの2015年7月11日付けの記事「DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?」にて、大阪市がDV被害者等は申出があれば通知カードの送付先を変更することが可能と市のウェブサイトで案内しているとしたが、横浜市も同様の案内を行っている。

「震災避難者、DV(配偶者暴力)・ストーカー・児童虐待で避難している人へ」
 (http://www.city.yokohama.lg.jp/shimin/madoguchi/koseki/tuuchitaiou.html

 大阪市と違い「受付の期間」に

 平成27年9月頃を予定しています。

  ※手続等の詳細は、国などから7月頃に示される予定です」と、また「申出の方法」に「手続等の詳細は、国などから7月頃に示される予定です。

と予定の期日が明示されている。
 また、「相談先」として

 ・市内に住んでいて、市内の別の場所に住民登録をしている人  → 居住区または住民登録をしている各区役所戸籍課へ

 ・市内に住んでいて、市外に住民登録をしている人  → 住民登録をしている市町村へ

としており大阪市より親切だ。

■他の市町村は?

 他の市町村はどうなのか。「通知カード 送付先 DV」でグーグル検索をしてみた。
 下記は、2015年7月17日に検索した際に表示された順による。また、これ以外にも案内している市町村はあると思われるが、検索結果の上位50件の中から該当するもののみ掲載した。

◎北九州市
 「マイナンバー(個人番号)の通知について」(http://www.city.kitakyushu.lg.jp/shimin/14900093.html)

 東日本大震災の被災者、DV・ストーカー・児童虐待の被害者などで、お住まいの居所に住民票を移せない事情がある方は、通知カードを実際にお住まいの居所に郵送することもできます。

 申請方法については、国の情報等を基に検討を進めているところです。詳細が分かり次第、ホームページに情報を掲載します。

◎つくば市
 「住所の届出は正しく行われていますか?」(http://www.city.tsukuba.ibaraki.jp/14211/14650/018305.html)

 DV等被害者については,住民基本台帳法の支援措置を申し出ることにより,ご自身の住所が,DV等加害者による住民票の写しなどの請求を通じて,DV等加害者に知られることを防ぐ措置を取ることも可能となっていますので,お問い合わせください。

 また,やむを得ない事情(東日本大震災による被災者・DV等被害者)により住民票の住所でない場所にお住まいの場合,通知カードを受取るための登録を行う予定となっています。
 詳細が決定次第,広報等でお知らせする予定です。

◎加賀市
 「マイナンバー制度(通知カード・個人番号カード)」(http://www.city.kaga.ishikawa.jp/shiminseikatsu/madoguchi/mynumberseido.html)

◎「通知カード」は国から住民票の住所地に「世帯単位」で送付されます。
 住民票と異なるところに住んでいる方は、現在住んでいる市区町村に住民票を移してください。

 ※ただしDVなどのやむを得ない事情で住民票を移すことができない方はお問い合わせください。

◎尼崎市
 「マイナンバーの通知カードが、平成27年10月から住民票上の住所に送付されます」(http://www.city.amagasaki.hyogo.jp/mynumber/33945/033963.html)

 住民票に登録されている住所が現住所と異なっていないかどうかご確認ください。
 (DV等の理由により、現住所が住民票に登録されている住所でない方への対応は後日お知らせします。)

◎気仙沼市
 「マイナンバー(個人番号)通知について」(http://www.city.kesennuma.lg.jp/www/contents/1433987149981/index.html)

 DV被害や東日本大震災等によりやむをえず仮住まいされている方については、8月以降、申請により、避難先への送付が可能となる予定ですので、別途ご相談ください。

◎高砂市
 「個人番号カード・通知カード」(http://www.city.takasago.hyogo.jp/sp/index.cfm/13,0,123,998,html)

 ※DVやストーカー行為等を理由に避難している方で、現在お住まいの居所が住民票に登録されていない方は、事前手続により、居所に通知カードを送付することができる場合がありますので、市民課へお問い合わせください。

◎大槌町
 「マイナンバー制度がはじまります!」(http://www.town.otsuchi.iwate.jp/docs/2015031000019/

 なお、東日本大震災で被災して避難されている方や、DV被害で避難されている方につきましては、別途特別な送付手続が用意される見込みですので、追ってホームページ、広報などでお知らせいたします。

◎高槻市
平成27年10月からマイナンバーが通知されます」(http://www.city.takatsuki.osaka.jp/kakuka/shimin/simin/gyomuannai/mynumber/1433898673151.html

 配偶者からの暴力等を理由に避難しているが、事情により住民票を移すことができていない方は、今実際にお住まいの住所を申し出ていただくことにより、その避難先の住所に「通知カード」を郵送できる場合があります。
 くわしくは、市民課マイナンバープロジェクトチーム(電話:072-674-7067)までお問合せください。

◎斑鳩町
「マイナンバーの通知に関するお知らせ」(http://www.town.ikaruga.nara.jp/si/category_132/item_1149.html

※配偶者からの暴力(DV)等を理由に、住民票を移さずに現在の市町村にお住まいの方は、
 通知先を変更することができますので、現在お住まいの市町村にご相談ください。

【続々】DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?

2015年7月15日 (水)

マイナンバーとカードの際限なき利用拡大を図る ――世界最先端IT国家創造宣言

    簡単に言うと

  • 6月30日、マイナンバーを「豊かな暮らしを実現するための基盤」と位置づける「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」が閣議決定された。
  • 宣言は、戸籍事務、旅券事務、在外邦人の情報管理業務、証券分野等でのマイナンバーの利用の検討を進め、2019年通常国会をめどに必要な法制上の措置などを講ずるとしている。
  • 個人番号カードについて、2016年1月から国家公務員身分証とするとともに、地方自治体などの職員証や民間企業の社員証等としての利用の検討を促すとしている。また、2017年度以降でのキャッシュカードやデビットカード、クレジットカードとしての利用について民間事業者と検討を進めるとともに、2017年7月以降早期に健康保険証として利用することを可能とするとある。
  • 2017年1月のマイナポータルの運用開始に合わせ、個人番号カードの公的個人認証機能を活用し、官民の証明書類の提出や引っ越し・死亡等に係るワンストップサービスなどを順次実現するとしている。
  • 5月のマイナンバー等分科会に福田峰之・内閣府大臣補佐官が提出した「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」が、IT国家創造宣言によって、そのまま国の方針として確定されたのだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」、「日本再興戦略 改訂2015」、「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」の3つの政府方針が、一度に閣議決定(http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/)された。

 方針、戦略、宣言のどれにも、マイナンバーの活用がうたわれている。
 このうち「経済財政運営と改革の基本方針2015」(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf)については「マイナンバーで社会保障費の削減と税の徴収強化を ―骨太の方針2015」にて、また「日本再興戦略 改訂2015」については「マイナンバーの戸籍や旅券での利用や、個人番号カードのクレジットカードとしての利用も ―日本再興戦略 改訂2015」で、それぞれ何が書かれているのか明らかにした。
 今回は、残る「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20150630/siryou1.pdf)がマイナンバーの活用についてどのように書いているのか見てみることにしたい。

■世界最先端IT国家創造宣言とIT総合戦略本部

 今回改訂された「世界最先端IT国家創造宣言」は、もともとIT総合戦略本部が2013年6月に策定し閣議決定されたもので、2014年6月にも一度改訂されている。

 正式名称「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」のIT総合戦略本部は、「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」に基づき、「高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進する」(25条)ために2001年1月に内閣に設置された行政機関である。これまでにe-Japan戦略や、IT新改革戦略などを策定してきた。

 本部長は内閣総理大臣、副本部長はIT政策担当大臣、内閣官房長官、総務大臣、経済産業大臣であり、他の全ての国務大臣と民間有識者などが本部員となっている。
 現在、内山田竹志・トヨタ自動車株式会社代表取締役会長、鵜浦博夫・日本電信電話株式会社代表取締役社長、坂村健・東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授、村井純・慶應義塾大学環境情報学部長などが有識者として参加している。

■ マイナンバーは豊かな暮らしを実現するための基盤?

 「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」(以下、「IT国家創造宣言・改定」)は、「Ⅰ.基本理念」「Ⅱ.目指すべき社会・姿」「Ⅲ.目指すべき社会・姿を現するための取組」「Ⅳ.利活用の裾野拡大を推進するための基盤の強化」「Ⅴ.本戦略の推進体制・推進方策」からなる。「マイナンバー」の語は、全体を通して26回出て来る。

 「Ⅰ.基本理念」では、マイナンバー制度は、この2年間にわたるとりくみによって、IT利活用に係る基盤は整備されつつあるとして、その代表的な成果の1つとして取り上げられている(1頁)。そして、世界最高水準のIT利活用社会を目指し、「これまで整備してきたマイナンバー制度などのIT利活用基盤を積極的に活用し、未来社会の産業創造、社会改革を念頭に置きつつ、世界に先駆けて『課題解決型IT利活用モデル』を構築し、国民が実感できる『真の豊かさ』を実現することに重点を置くものとする」(4頁)としている。

 「Ⅱ.目指すべき社会・姿」では、マイナンバー制度は「様々な場面や分野においてIT利活用促進に係る重要な基盤となるインフラを提供し、国民生活の安全・安心・公平・豊かさを実現するもの」と位置づけられ、その徹底活用により「オープンで利便性の高い公共サービスを提供し、電子行政サービスがワンストップでどんな端末でも受けられる『便利なくらし』社会を実現する」としている(7頁)。
 マイナンバー制度で税・社会保険料徴収の適正化を進めることをうたった「骨太の方針2015」とは違い、IT国家創造宣言・改定は、その役割を便利な暮らしを実現するための基盤であるとしている。

■ マイナンバーの利活用範囲の拡大とカードの利活用促進

 「Ⅲ.目指すべき社会・姿を現するための取組」では、Ⅱで示した行政サービスの電子化・ワンストップ化のための法整備を次期通常国会から順次行うとしている(9頁)。

 また、ここでは「効果的・効率的で高品質な医療・介護サービスの展開」を目指すために、「マイナンバー制度のインフラを活用して、医療機関の窓口において、医療保険資格をオンラインで確認できるシステムを整備することにより、個人番号カードを健康保険証として利用することを可能とする仕組みを整備する」とともに、「オンライン資格確認の基盤を活用して、医療等分野に用いる番号を早期に導入する」としている(17頁)。

 さらに「経済成長のツールとしてマイナンバーの積極的な利活用を図る上では、国民の個人情報保護に関する不安に鑑み、十分な情報セキュリティ対策を講ずることが重要である」とした上で、マイナンバー制度の活用策が示されている(25~27頁)。
 要約すると、

① マイナンバー利活用範囲の拡大
 戸籍事務旅券事務、在留届など在外邦人の情報管理業務、証券分野等において公共性の高い業務についての利用の検討を進め、2019年通常国会をめどに必要な法制上の措置などを講ずる。

② 個人番号カードの普及・利活用の促進
 2016年1月から国家公務員身分証との一体化を進めるとともに、地方自治体、独立行政法人、国立大学法人等の職員証や民間企業の社員証等としての利用の検討を促す。
 2017年度以降の個人番号カードのキャッシュカードデビットカードクレジットカードとしての利用などについて民間事業者と検討を進める。
 2017年7月以降早期に医療保険のオンライン資格確認システムを整備し、個人番号カードを健康保険証として利用することを可能とする
 印鑑登録者識別カードなどの行政が発行する各種カードとの一体化を図る。 各種免許等における各種公的資格確認機能を個人番号カードに持たせることについて検討を進め、可能なものから順次実現する。
 個人番号カードを利用した、住民票、印鑑登録証明書、戸籍謄本等のコンビニ交付について、来年度中に実施団体の人口の合計が6千万人を超えることを目指す。
 住民票を有しない在留邦人への個人番号カードの交付などの2019年度中の開始を目指し、検討を進める。

③ マイナポータルの構築・利活用
 個人番号カードの公的個人認証機能を活用し、官民で連携した仕組みを設け、電子私書箱機能を活用した官民の証明書類の提出や引っ越し・死亡等に係るワンストップサービスなどを2017年1月のマイナポータルの運用開始に合わせて順次実現する。

④ 個人番号カード及び法人番号を活用した官民の政府調達事務の効率化
 個人番号カード、法人番号を用いて、政府調達に関する入札参加資格審査から契約までの一貫した電子化を2017年度から順次開始する。

⑤ 法人番号の利活用推進
 既存の法人に係る各種の番号との連携などにより、法人に係る情報についての検索・利用を容易にし、法人番号の利用価値を高める。

 また、「国・地方を通じた行政情報システムの改革」の1つとして、「2017年7月の地方の情報提供ネットワークシステムの運用開始以降、マイナンバー制度を活用した子育てワンストップサービスの検討を進める」としている(29頁)。もっとも、このサービスがどのようなものであるかの説明は一切ない。

■ 「利活用推進ロードマップ(案)」を国の方針にしたIT国家創造宣言

 IT国家創造宣言・改定が示した活用策の多くは、「日本再興戦略 改訂2015」でうたわれたものと同様に、IT総合戦略本部のマイナンバー等分科会(5月20日開催)に福田峰之・内閣府大臣補佐官が提出した「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/number/dai9/siryou6.pdf)の内容とそっくりである。分科会でなされた議論が、そのままIT国家創造宣言・改定に持ち込まれ、閣議決定を経て、正式な国の方針となったのだ。

※ 「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」については、当ブログの筆者である黒田が「IWJ Independent Web Journal」に寄稿した「暴走するアベのマイナンバー ~『カジノ入館』にまで!? 政府が描く、国民総背番号制の驚愕の“未来図”の正体」(http://iwj.co.jp/wj/open/archives/249621)を参照されたい。

 なお、IT国家創造宣言・改定には、工程表(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20150630/siryou3.pdf)が策定されている。下記の図は、そのうちの 「安全・安心を前提としたマイナンバー制度の活用」(100~103頁)の部分である。

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2015年7月11日 (土)

DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?

     簡単に言うと

  • 大阪市が、DV・ストーカー・児童虐待等の被害者で、マイナンバーの通知カードが送付されることで、新たな被害が発生する可能性がある人について、申出があれば送付先を変更することが可能とTwitterやウェブサイトで広報。
  • ただし、送付先を変更できるのはDV、ストーカー、児童虐待等で住民基本台帳法上の支援措置を受けている人だけ。支援措置を受けていない人については現時点では未定、「国から詳細が示され次第お知らせいたします」とあるのみ。また、DV等以外の理由では送付先は変更できないと案内。
  • こうした対応しかできないのは、マイナンバー制度が法定受託事務のため。国が措置を示さなければ、市町村は何も出来ない。
     
  • 【続報】はこちら

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

  → 総務省が、DV被害者等への通知カードの送付先変更の案内ページを開設

 2015年7月10日15時47分、大阪市広報(公式)アカウントから「マイナンバー制度の導入に伴い、住民票記載の住所へ通知カードが送付されます。DV(配偶者暴力)等の被害者で、通知カードが送付されることで、新たな被害が発生する可能性がある方は、申出いただくことにより送付先を変更することが可能です。
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000313940.html …」とのツイートがなされた。

 ツイートで紹介されたリンク先は大阪市のWebサイトにある「震災避難者、DV(配偶者暴力)・ストーカー・児童虐待等で避難されている方へ」と題されたページ(http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000313940.html)だ。

■DV等の被害者、通知カードの送付先変更が可能に

 筆者である黒田は、2015年3月29日付けのブログ「住民票を移せない人たちを切り捨てるマイナンバーの政府広報」、及び、同31日付けのブログ「住民票を移せずマイナンバーが届かない人はどうなる」において、DVなどから逃げているため住所地に住民票を移していない、移すことが出来ない人には、マイナンバーの通知が届かず、自分の番号を知ることが出来ない、また、DVの加害者に番号が知られてしまうことになると問題点を指摘したが、大阪市のページはこうした問題に対する対応策のようだ。

 大阪市のページにはこう書かれている

 通知カードは皆様へ確実に届けられるように、住民票に記載されている住所と異なる住所に住んでいる方は、区役所に住所変更を届け出ていただくことが基本となります。

 ただし、震災避難者、DV(配偶者暴力)・ストーカー・児童虐待等の被害者で、住民票に記載されている住所に通知カードが送付されることで、新たな被害が発生する可能性がある方については、申出いただくことにより通知カードの送付先を変更することが可能です。申出の期間や方法等の詳細については、現時点では未定です。今後、国から示され次第お知らせします。

 肝心の「申出の期間や方法等の詳細」が、通知までもう3ヶ月ほどしか残っていないのに、「未定」には、正直がっかりさせられるが、それでも国が対策をとろうとしているのは歓迎できる。

■送付先変更は「住民基本台帳法上の支援措置」を受けている者だけ

 しかし、「良かった」と喜ぶのは性急過ぎる。問題は誰が対象なのかだ。

2 対象となる方

 大阪市に住民登録がある方で次のいずれかに該当する方

 ・震災避難者
 ・DV(配偶者暴力)、ストーカー、児童虐待等で住民基本台帳法上の支援措置を受けている方のうち、住民票の住所に通知カードを送付することで、新たな被害が発生する可能性がある方

とある。
 DV等については、「住民基本台帳法上の支援措置」を受けている者に限定されているのだ。

 「住民基本台帳法上の支援措置」とは、総務省の「住民基本台帳事務処理要領」によれば、市町村長が「ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の加害者が、住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写しの交付の制度を不当に利用してそれらの行為の被害者の住所を探索することを防止し、もって被害者の保護を図ることを目的」として、閲覧や写しの交付などを制限する措置である。

■「住民基本台帳法上の支援措置」とは何か

 大阪市のサイトには、このための手続きについて書いてあるページが見つからなかったが、宇都宮市のウェブサイトに説明文書(PDF)(http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/002/777/siennsotisetumei.pdf)があったので、そちらから一部を抜粋する。

申請できる人

原則として被害者本人

・配偶者暴力防止法第1条第1項に規定する配偶者からの暴力の被害者
・ストーカー規制法第7条に規定するストーカー行為等の被害者
・児童虐待防止法第2条に規定する被害者
・上記に準ずる被害者(子・兄弟などの親族,その他の者からの被害)

支援期間

申請翌日から1年間(延長可) ※期限が切れる前に通知いたします。

手続に必要なもの

・住民基本台帳事務における支援措置申出書「別紙」
・本人確認書類(運転免許証,住民基本台帳カード 等)

「住民基本台帳法上の支援措置」の手続きの流れ

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 要するに、こうした申請手続きをし「住民基本台帳法上の支援措置」が認められた者についてのみ「申出いただくことにより(通知カードの)送付先を変更することが可能」ということなのだ。

■「住民基本台帳法上の支援措置」を受けていない人への対策はまだ「白紙」?

 では、DV等を受けているが、申請していない者や申請することが困難な者、申請したがまだ認められていない者はどうなるのか。

 大阪市のページには

※ また、DV(配偶者暴力)、ストーカー、児童虐待等被害者で住民基本台帳法上の支援措置をまだ申し出てはいないが、住民票に記載されている住所に通知カードを送付すると新たな被害が発生する可能性がある方への対応についても、現時点では未定ですので、国から詳細が示され次第お知らせいたします。

とある。
 もうすぐ通知が始まるというのに、まだ未定なのだ。加害者に通知が届くことによって、また、被害者に通知が届かないことによって、基本的人権が侵害される可能性は大きいのに、こんな有様なのだ。

 それでも「国から詳細が示され次第」とあるから、待っていれば国から詳細が示されると期待していいのだろうか。色々考えましたがとれる措置はありませんとして、切り捨ててしまうことはないのだろうか。

■震災避難者やDV等の被害者でなければ、送付先の変更は出来ない

 ところで、住民票を住所地に移せない人は、震災避難者やDV等の被害者以外にもいる。借金取りから逃げているなど様々な理由があるだろう。しかし、こうした人たちへの対応は示されておらず、この大阪市のページの下の方にある「よくある質問(FAQ)」には次の様に冷たく書かれているだけである。

Q DV・ストーカー・児童虐待等の被害者以外の理由で通知カードの送付先は変更できますか。

A DV・ストーカー・児童虐待等の被害者以外の理由では、通知カードの送付先の変更はできません

 もちろん、こうした「冷たい対応」は大阪市の責任ではない。マイナンバー制度に係わる事務は法定受託事務であり、市町村が独自に対応する余地はほとんどないのだ。国が措置を示さなければ、いくら大阪市や大阪市の職員が、市民のために何とかしたいと思ってもでどうすることも出来ないのだ。

【続報】DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?

【続々】DV等の被害者、申出すればマイナンバーの通知カード、送付先変更が可能に?

2015年7月 8日 (水)

マイナンバーの戸籍や旅券での利用や、個人番号カードのクレジットカードとしての利用も ―日本再興戦略 改訂2015

     簡単に言うと

  • 6月30日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」に、鍵となる施策の1つとしてマイナンバーの活用が盛り込まれた。
  • 戦略は、新たなビジネスモデルの創出に向け、マイナンバーの戸籍や旅券での利用を2019年に法案化するとしている。また、2017年7月以降の早期に個人番号カードを健康保険証に利用できるようにするとともに、キャッシュカードやクレジットカードとしての利用も検討するとある。
  • 医療分野における番号は、マイナンバーと紐付けし、2018年度から段階的運用を開始する。
  • 国民が知らぬ間に利用範囲の拡大をどんどん決めてしまう安倍政権。「アベのマイナンバー」は暴走しているのだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」、「日本再興戦略 改訂2015」、「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」の3つの政府方針が、一度に閣議決定(http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/)された。

 方針にも戦略にも宣言にも、マイナンバーの活用がうたわれている。このうち「経済財政運営と改革の基本方針2015」(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf)に何が書かれているのかは、「マイナンバーで社会保障費の削減と税の徴収強化を ―骨太の方針2015」にて既に述べた。
 そこで今回は「未来への投資・生産性革命」との副題がつけられた「日本再興戦略 改訂2015」についてみることにしたい。

■日本再興戦略と日本経済再生本部

 2012年12月、閣議決定により、経済の再生に向けた「必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実現する」ための「企画及び立案並びに総合調整を担う司令塔」として内閣に「日本経済再生本部」(本部長 内閣総理大臣)が設置された(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/)。
 そして、その第1回会合にて本部の下に、「成長戦略の具現化と推進について調査審議」する組織として「産業競争力会議」の設置が決定された。構成員は、内閣総理大臣、副総理、経済再生担当大臣、内閣官房長官、経済産業大臣らと有識者であり、議長は内閣総理大臣が務めている。因みに、現在、有識者には、三木谷浩史楽天株式会社代表取締役会長兼社長や、パソナグループ取締役会長でもある竹中平蔵慶應義塾大学総合政策学部教授などが名を連ねている。

 「日本再興戦略 改訂2015」は、この産業競争力会議での議論をもとに、「骨太の方針2015」を答申として決定した経済財政諮問会議と産業競争力会議との合同会議(6月30日、首相官邸4階大会議室にて17時00分~17時25分に開催[http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201506/30goudoukaigi.html])で決定されている。閣議決定は、その後に開かれた閣議で行われたものと思われる。
 なお、「日本再興戦略」自体は、2013年6月に決定された後、翌年の6月に一度改訂されており、今回が2回目の改訂となる。

 「日本再興戦略 改訂2015」は、
「本文(第一部 総論 [http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai1jp.pdf]、
第二部及び第三部[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf)」、
「工程表」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/kouteihyo.pdf)、
「改革2020プロジェクト・工程表」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/kaikaku2020_bessatu.pdf
からなる。
 また、総論概要(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/souron_gaiyou.pdf)も作られている。

■新たなビジネスモデル創出へマイナンバーの利活用範囲の拡大を

 第一部総論(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai1jp.pdf)は、「Ⅰ.日本再興戦略改訂の基本的な考え方」「Ⅱ.改訂戦略における鍵となる施策」「Ⅲ.更なる成長の実現に向けた今後の対応」「Ⅳ.改訂戦略の主要施策例」から構成されている。

 マイナンバーの語は6カ所で使われている。

 「Ⅱ.改訂戦略における鍵となる施策」の「1.未来投資による生産性革命」の「(2)新時代への挑戦を加速する」に、「迫り来るIoT・ビッグデータ・人工知能時代に向けた第一歩として、セキュリティの確保を大前提としつつ、ITの利活用を徹底的に進めていく」とする「ii)セキュリティを確保した上でのIT利活用の徹底」の項(11頁)が設けられている。
 ここでは「マイナンバーの利活用範囲の拡大」は、「データを利活用した新たなビジネスモデルを創出する企業のチャレンジを後押しするとともに、新たな市場を創出するための規制・制度改革を推進」するための鍵となる施策の1つとしてあげられている。
 具体的には「国・地方のシステム全体に関する監視・検知機能の導入等によるセキュリティ対策の強化と歩調を合わせつつ、利用範囲を税、社会保障からその他の行政サービスに順次拡大するとともに、民間サービスにおける活用についても検討する」(13頁)としている。

 「Ⅳ」では「マイナンバーの利活用範囲の拡大」が、改訂戦略の主要施策例の1つとされ、「国・地方全体を俯瞰した監視・検知体制の整備等により、マイナンバー制度のセキュリティ確保を徹底する」とともに、「マイナンバーの利活用範囲を、税、社会保障から、戸籍、パスポート、在外邦人の情報管理、証券分野等における公共性の高い業務へ拡大する【できるだけ早い機会に法制上の措置等を講ずる】」(32頁)と書かれている。
 さらに、「医療・介護・ヘルスケア産業の活性化・生産性の向上」として、「セキュリティの徹底的な確保を図りつつ、マイナンバー制度のインフラを活用し、医療等分野における番号制度を導入する。【2018年から段階的運用開始、2020年までに本格運用】」(37頁)としている。

 要するに、新たなビジネスモデルの創出のために、マイナンバー制度の利活用範囲を早期に戸籍やパスポートなどへ拡大し、さらに医療分野にマイナンバーと紐付けられた番号制度を導入する、すなわちマイナンバーを利用して、国民の医療情報を含む個人情報をビックデータとして活用をしていこう、経済界に飯の種として提供しようというのだ。

■戸籍や旅券での利用は2019年に法案化、個人番号カードのクレジットカードとしての利用も検討

 第二部(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf)では、「日本産業再興プラン」「戦略市場創造プラン」「国際展開戦略」からなる「3つのアクションプラン」が示されている。ここでは、マイナンバーは、総論で示された方向をより具体的に述べる形で29回も使われている。

 まず登場するのは、日本産業再興プランの「4.世界最高水準のIT社会の実現」の「(2)施策の主な進捗状況」(94頁)の中である。マイナンバーの利用拡大を図る番号法の改正案(個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律)が、本年3月に国会提出されたと書かれている。もっとも、この改正案は日本年金機構からの個人情報の流出を受け、本稿を執筆している7月9日時点ではまだ衆議院で審議中となっている。

 次の「(3)新たに講ずべき具体的施策」では、「国民・社会を守るサイバーセキュリティ」として「マイナンバー制度の円滑な導入に向けた対策の強化」(97頁)があげられ、その後、「安全・安心を前提としたマイナンバー制度の活用」(100頁)が、具体的に示されている。
 活用内容をまとめると、

◎戸籍事務、旅券事務、在外邦人の情報管理業務、証券分野への利用拡大のための法案を2019年に国会に出す。

◎個人番号カードについては、2016年1月から国家公務員身分証との一体化を進めるとともに、地方自治体や国立大学等の職員証や民間企業の社員証等での利用や、2017年度以降でのキャッシュカードやデビットカード、クレジットカードとしての利用の実現へむけ検討する。また、住民票、印鑑登録証明書、戸籍謄本等のコンビニ交付について、2016度中に実施団体の人口合計が6千万人を超えることを目指す。さらに、住民票のない在留邦人への交付なども2019年度中の開始へ検討を進める。

◎2017年7月以降早期に、個人番号カードを健康保険証て利用できるようにするとともに、印鑑登録カード等の行政が発行する各種カードとの一体化を図る。また、各種免許等の資格確認機能を持たせることも検討し可能なものから順次実現する。

◎2017年1月のマイナポータルの運用開始に合わせ、官民で連携した仕組みを設け、官民の証明書類の提出や引越・死亡等に係るワンストップサービスを順次実現するとともに、年金・国税・地方税等に関する各種行政手続の一括的処理や、医療費控除の申告手続の簡素化等を実施する。

◎個人番号カード、法人番号を活用した官民の政府調達事務の効率化を図る。

 さらに、「IT利活用の更なる促進」として、2017年7月以降に、マイナンバー制度を活用した子育てワンストップサービスの検討を進める(104頁)など、行政サービスのオンライン改革を進めるとしている。

■2018年度から医療等分野における番号の段階的運用を開始

 次の戦略市場創造プランでは、「テーマ1:国民の「健康寿命」の延伸」における新たに講ずべき具体的施策の1つとして「医療・介護等分野におけるICT化の徹底」(145頁)があげられている。2018年度からマイナンバー制度のインフラを活用した医療等分野における番号の段階的運用を開始し、2020年までに本格運用を目指すとある。
 また、2018年を目途に特定健診データをマイナポータル等を活用し個人が電子的に把握・利用できるようにするとしている。

 「2013年度から現時点までの進捗状況を示すとともに、当面3年間(2017年度まで)と2018年度以降の詳細な施策実施スケジュールを整理した」とする「工程表」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/kouteihyo.pdf)には、「マイナンバー制度の徹底利活用」に関する頁が、下記のように2頁(46、47頁)設けられている。

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 なお、上の図(2枚目)に出て来る「マイナンバー制度の活用等による年金保険料・税に係る利便性向上等に関するアクションプログラム」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nenkin_kentou/dai3/houkoku1.pdf)は、内閣官房副長官を座長に社会保障・税一体改革担当大臣の下に設置された「年金保険料の徴収体制強化等のための検討チーム」が、2015年6月22日に取りまとめたもの。
 アクションプログラムは「国民の利便性向上」や「行政効率化」とともに、「マイナンバーの利用開始により、日本年金機構と国税庁・市町村の間の情報連携が強化されること等を踏まえ、年金保険料の徴収強化に関する取組を一層推進することとする」としている。

■やはり暴走していた「アベのマイナンバー」

 以上「日本再興戦略 改訂2015」に書かれたマイナンバーの利活用策は、筆者である黒田が「IWJ Independent Web Journal」に寄稿した「暴走するアベのマイナンバー ~『カジノ入館』にまで!? 政府が描く、国民総背番号制の驚愕の“未来図”の正体」(http://iwj.co.jp/wj/open/archives/249621)で紹介した「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」の内容とそっくりである。

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 このロードマップ(案)は、5月20日に開催された政府のIT総合戦略本部のマイナンバー等分科会に福田峰之・内閣府大臣補佐官が提出したものだ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/number/dai9/siryou6.pdf)。その時点では「案」に過ぎなかったはずだが、わずか1ヶ月あまり後には、閣議決定され国の方針となったのだ。
 ロードマップ(案)は、福田補佐官の個人的な思いつきでも、妄想でもなかったわけだ。

 ほとんどの国民が知らないまま、知らせないまま、「未来への投資・生産性革命」をうたい文句に、国民の個人情報を活用した新たなビジネスモデルの創出として、一方的にマイナンバーの利用範囲の拡大をすすめていく安倍政権。「アベのマイナンバーの暴走」は、もはや間違いのない事実なのだ。

2015年7月 1日 (水)

マイナンバーで社会保障費の削減と税の徴収強化を ―骨太の方針2015

     簡単に言うと

  • 6月30日に閣議決定された「骨太の方針2015」には、マイナンバーの活用が盛り込まれた。
  • 方針は、マイナンバーで税・社会保険料徴収の適正化を進める、要するに徴収(取り立て)の強化を図る考えを示す。
  • 金融資産の保有状況(預金残高?)と医療保険、介護保険の負担額を連動させることも。
  • 固定資産(土地・家屋)にもマイナンバーを紐付けし、税・社会保険料の徴収強化に役立てる。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」、「日本再興戦略 改訂2015」、「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」の3つの政府方針が、一度に閣議決定(http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/)された。

 方針にも戦略にも宣言にも、マイナンバーの活用がうたわれているのだが、今回は「経済再生なくして財政健全化なし」との副題がつけられた「経済財政運営と改革の基本方針2015」(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf)には、何が書かれているのかみることにしたい。

■骨太の方針とは

 「経済財政運営と改革の基本方針2015」は、いわゆる「骨太の方針」の2015年版である。2001年以降毎年(民主党政権下で一時中断)、内閣総理大臣からの諮問を受けた経済財政諮問会議が答申をし、これを閣議決定する形式をとっている。。
 経済財政諮問会議は内閣府設置法に基づく行政機関で、同会議のウェプサイト(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/)には

 経済財政諮問会議は、経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮させるとともに、関係国務大臣や有識者議員等の意見を十分に政策形成に反映させることを目的として、内閣府に設置された合議制の機関です。

と説明されている。なお、同会議は内閣総理大臣、内閣官房長官、経済財政政策担当大臣等の閣僚と民間有識者で構成(名簿[PDF])されており、議長は内閣総理大臣が務めている。

 なお、「骨太の方針2015」が答申として決定された経済財政諮問会議は、産業競争力会議との合同という形で、6月30日に首相官邸4階大会議室にて17時00分~17時25分に開催(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201506/30goudoukaigi.html)されている。閣議は、その後に開かれたものと思われる。

■マイナンバーの活用で税・社会保険料徴収の適正化を

 さて、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(以下、骨太の方針2015)には、マイナンバーについて何が書かれているのか。

 骨太の方針2015は、第1章 現下の日本経済の課題と基本的方向性、第2章 経済の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題、第3章 「経済・財政一体改革」の取組-「経済・財政再生計画」、第4章 平成28年度予算編成に向けた基本的考え方からなっている。

 マイナンバーの語は9カ所で使われているが、登場するのは全て第3章である。
 「『経済・財政一体改革』を不退転の決意で断行する必要がある」とする「経済・財政再生計画」の「2.計画の基本的考え方」の(歳入改革)の項に「マイナンバー制度の活用等により税・社会保険料徴収の適正化を進める」(23頁)とあり、「目標とその達成シナリオ、改革工程」の項には「マイナンバー制度の活用による徴収の適正化や税外収入の確保などの効果も想定される」(25頁)とある。マイナンバーで歳入増(徴収強化)をということだ。

■マイナンバーの活用で業務の簡素化・標準化

 一方、歳出面では、「4.歳出改革等の考え方・アプローチ」の「公共サービスのイノベーション」の項に、「マイナンバー制度の活用やITを活用した業務の簡素化・標準化」などを重点的に取り組むことで、「行財政改革の遅れている国の機関、自治体等の取組を促すとともに、企業等による新サービスの創出を促進する」(29頁)とある。マイナンバーで歳出を減らすとともに、企業の新サービスに活用というのが政府の考えなのだ。
 また「マイナンバー制度を有効活用し、質の高い公共サービスを効率的に提供する優良事例を全国に展開する」(30頁)ともある。自治体にマイナンバーの活用を色々させようということなのだろう。

■金融資産を医療・介護保険負担額に連動

 「5.主要分野ごとの改革の基本方針と重要課題」では、「[1]社会保障」の(基本的な考え方)として、「民間の力を最大限活用して関連市場の拡大を実現することを含め、社会保障関連分野の産業化に向けた取組を進める」(30頁)と、社会保障を民営化、市場化からさらに踏み込み「産業化」するとしている。
 その上で、(公的サービスの産業化)の項で、「マイナンバー制度のインフラ等を効率的に活用しつつ、医療保険のオンライン資格確認の導入、医療機関や介護事業者等の間の情報連携の促進による患者の負担軽減と利便性向上、医療等分野における研究開発の促進に取り組む」(32頁)としている。

 さらに、(負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化)の項で「世代間・世代内での負担の公平を図り、負担能力に応じた負担を求める観点から、医療保険における高額療養費制度や後期高齢者の窓口負担の在り方について検討するとともに、介護保険における高額介護サービス費制度や利用者負担の在り方等について、制度改正の施行状況も踏まえつつ、検討を行う。また、現役被用者の報酬水準に応じた保険料負担の公平を図る。このため、社会保障改革プログラム法に基づく検討事項である介護納付金の総報酬割やその他の課題について検討を行う」とともに、「医療保険、介護保険ともに、マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みについて、実施上の課題を整理しつつ、検討する」(33頁)としている。
 マイナンバーを使って、資産を医療保険、介護保険の負担額に連動させようというわけだ。

■固定資産にもマイナンバーを紐付け

 「[3]地方行財政改革・分野横断的な取組等」の(IT化と業務改革)の項では「国・地方(独立行政法人を含む。)を通じた横断的な取組として、行政のIT化に対する国民の信頼が確保されるよう、徹底したサイバーセキュリティ対策を講じつつ、マイナンバー制度の導入を突破口に更なるIT化と業務改革を図る」(39頁)とある。
 行政のIT化の突破口にマイナンバーをと目論んでいるようだが、昨今の日本年金機構などの現実を見ればプライバシー流出の突破口になりそうだ。

 「[5]歳入改革、資産・債務の圧縮」の「(1)歳入改革」「①歳入増加に向けた取組」では「課税等インフラの整備」として、「マイナンバー制度を活用し、徴税コストの削減を図るとともに、担税力を適切に捕捉するため、金融及び固定資産情報(登記及び税情報を含む。)と所得情報をマッチングするなど、マイナンバーをキーとした仕組みを早急に整備するとともに、税・社会保険料徴収の適正化を進める」(41頁)とある。
 マイナンバーとの紐付けを、所得や金融資産だけでなく固定資産にも行い、これを税・社会保険料の徴収強化に役立てようと考えているようだ。将来、地価の高いところに住んでいる者は、たとえ所得が少なくとも、高額の保険料を請求されることになりそうだ。

 以上のように、マイナンバーで社会保障費の削減と税の徴収強化を図ろうという政府の意図は、骨太の方針2015に極めて明確に示されているのだ。

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