簡単に言うと
- 6月30日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」に、鍵となる施策の1つとしてマイナンバーの活用が盛り込まれた。
- 戦略は、新たなビジネスモデルの創出に向け、マイナンバーの戸籍や旅券での利用を2019年に法案化するとしている。また、2017年7月以降の早期に個人番号カードを健康保険証に利用できるようにするとともに、キャッシュカードやクレジットカードとしての利用も検討するとある。
- 医療分野における番号は、マイナンバーと紐付けし、2018年度から段階的運用を開始する。
- 国民が知らぬ間に利用範囲の拡大をどんどん決めてしまう安倍政権。「アベのマイナンバー」は暴走しているのだ。
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6月30日、「経済財政運営と改革の基本方針2015」、「日本再興戦略 改訂2015」、「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」の3つの政府方針が、一度に閣議決定(http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/)された。
方針にも戦略にも宣言にも、マイナンバーの活用がうたわれている。このうち「経済財政運営と改革の基本方針2015」(http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf)に何が書かれているのかは、「マイナンバーで社会保障費の削減と税の徴収強化を ―骨太の方針2015」にて既に述べた。
そこで今回は「未来への投資・生産性革命」との副題がつけられた「日本再興戦略 改訂2015」についてみることにしたい。
■日本再興戦略と日本経済再生本部
2012年12月、閣議決定により、経済の再生に向けた「必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実現する」ための「企画及び立案並びに総合調整を担う司令塔」として内閣に「日本経済再生本部」(本部長 内閣総理大臣)が設置された(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/)。
そして、その第1回会合にて本部の下に、「成長戦略の具現化と推進について調査審議」する組織として「産業競争力会議」の設置が決定された。構成員は、内閣総理大臣、副総理、経済再生担当大臣、内閣官房長官、経済産業大臣らと有識者であり、議長は内閣総理大臣が務めている。因みに、現在、有識者には、三木谷浩史楽天株式会社代表取締役会長兼社長や、パソナグループ取締役会長でもある竹中平蔵慶應義塾大学総合政策学部教授などが名を連ねている。
「日本再興戦略 改訂2015」は、この産業競争力会議での議論をもとに、「骨太の方針2015」を答申として決定した経済財政諮問会議と産業競争力会議との合同会議(6月30日、首相官邸4階大会議室にて17時00分~17時25分に開催[http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201506/30goudoukaigi.html])で決定されている。閣議決定は、その後に開かれた閣議で行われたものと思われる。
なお、「日本再興戦略」自体は、2013年6月に決定された後、翌年の6月に一度改訂されており、今回が2回目の改訂となる。
「日本再興戦略 改訂2015」は、
「本文(第一部 総論 [http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai1jp.pdf]、
第二部及び第三部[http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf)」、
「工程表」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/kouteihyo.pdf)、
「改革2020プロジェクト・工程表」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/kaikaku2020_bessatu.pdf)
からなる。
また、総論概要(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/souron_gaiyou.pdf)も作られている。
■新たなビジネスモデル創出へマイナンバーの利活用範囲の拡大を
第一部総論(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai1jp.pdf)は、「Ⅰ.日本再興戦略改訂の基本的な考え方」「Ⅱ.改訂戦略における鍵となる施策」「Ⅲ.更なる成長の実現に向けた今後の対応」「Ⅳ.改訂戦略の主要施策例」から構成されている。
マイナンバーの語は6カ所で使われている。
「Ⅱ.改訂戦略における鍵となる施策」の「1.未来投資による生産性革命」の「(2)新時代への挑戦を加速する」に、「迫り来るIoT・ビッグデータ・人工知能時代に向けた第一歩として、セキュリティの確保を大前提としつつ、ITの利活用を徹底的に進めていく」とする「ii)セキュリティを確保した上でのIT利活用の徹底」の項(11頁)が設けられている。
ここでは「マイナンバーの利活用範囲の拡大」は、「データを利活用した新たなビジネスモデルを創出する企業のチャレンジを後押しするとともに、新たな市場を創出するための規制・制度改革を推進」するための鍵となる施策の1つとしてあげられている。
具体的には「国・地方のシステム全体に関する監視・検知機能の導入等によるセキュリティ対策の強化と歩調を合わせつつ、利用範囲を税、社会保障からその他の行政サービスに順次拡大するとともに、民間サービスにおける活用についても検討する」(13頁)としている。
「Ⅳ」では「マイナンバーの利活用範囲の拡大」が、改訂戦略の主要施策例の1つとされ、「国・地方全体を俯瞰した監視・検知体制の整備等により、マイナンバー制度のセキュリティ確保を徹底する」とともに、「マイナンバーの利活用範囲を、税、社会保障から、戸籍、パスポート、在外邦人の情報管理、証券分野等における公共性の高い業務へ拡大する【できるだけ早い機会に法制上の措置等を講ずる】」(32頁)と書かれている。
さらに、「医療・介護・ヘルスケア産業の活性化・生産性の向上」として、「セキュリティの徹底的な確保を図りつつ、マイナンバー制度のインフラを活用し、医療等分野における番号制度を導入する。【2018年から段階的運用開始、2020年までに本格運用】」(37頁)としている。
要するに、新たなビジネスモデルの創出のために、マイナンバー制度の利活用範囲を早期に戸籍やパスポートなどへ拡大し、さらに医療分野にマイナンバーと紐付けられた番号制度を導入する、すなわちマイナンバーを利用して、国民の医療情報を含む個人情報をビックデータとして活用をしていこう、経済界に飯の種として提供しようというのだ。
■戸籍や旅券での利用は2019年に法案化、個人番号カードのクレジットカードとしての利用も検討
第二部(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai2_3jp.pdf)では、「日本産業再興プラン」「戦略市場創造プラン」「国際展開戦略」からなる「3つのアクションプラン」が示されている。ここでは、マイナンバーは、総論で示された方向をより具体的に述べる形で29回も使われている。
まず登場するのは、日本産業再興プランの「4.世界最高水準のIT社会の実現」の「(2)施策の主な進捗状況」(94頁)の中である。マイナンバーの利用拡大を図る番号法の改正案(個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律)が、本年3月に国会提出されたと書かれている。もっとも、この改正案は日本年金機構からの個人情報の流出を受け、本稿を執筆している7月9日時点ではまだ衆議院で審議中となっている。
次の「(3)新たに講ずべき具体的施策」では、「国民・社会を守るサイバーセキュリティ」として「マイナンバー制度の円滑な導入に向けた対策の強化」(97頁)があげられ、その後、「安全・安心を前提としたマイナンバー制度の活用」(100頁)が、具体的に示されている。
活用内容をまとめると、
◎戸籍事務、旅券事務、在外邦人の情報管理業務、証券分野への利用拡大のための法案を2019年に国会に出す。
◎個人番号カードについては、2016年1月から国家公務員身分証との一体化を進めるとともに、地方自治体や国立大学等の職員証や民間企業の社員証等での利用や、2017年度以降でのキャッシュカードやデビットカード、クレジットカードとしての利用の実現へむけ検討する。また、住民票、印鑑登録証明書、戸籍謄本等のコンビニ交付について、2016度中に実施団体の人口合計が6千万人を超えることを目指す。さらに、住民票のない在留邦人への交付なども2019年度中の開始へ検討を進める。
◎2017年7月以降早期に、個人番号カードを健康保険証て利用できるようにするとともに、印鑑登録カード等の行政が発行する各種カードとの一体化を図る。また、各種免許等の資格確認機能を持たせることも検討し可能なものから順次実現する。
◎2017年1月のマイナポータルの運用開始に合わせ、官民で連携した仕組みを設け、官民の証明書類の提出や引越・死亡等に係るワンストップサービスを順次実現するとともに、年金・国税・地方税等に関する各種行政手続の一括的処理や、医療費控除の申告手続の簡素化等を実施する。
◎個人番号カード、法人番号を活用した官民の政府調達事務の効率化を図る。
さらに、「IT利活用の更なる促進」として、2017年7月以降に、マイナンバー制度を活用した子育てワンストップサービスの検討を進める(104頁)など、行政サービスのオンライン改革を進めるとしている。
■2018年度から医療等分野における番号の段階的運用を開始
次の戦略市場創造プランでは、「テーマ1:国民の「健康寿命」の延伸」における新たに講ずべき具体的施策の1つとして「医療・介護等分野におけるICT化の徹底」(145頁)があげられている。2018年度からマイナンバー制度のインフラを活用した医療等分野における番号の段階的運用を開始し、2020年までに本格運用を目指すとある。
また、2018年を目途に特定健診データをマイナポータル等を活用し個人が電子的に把握・利用できるようにするとしている。
「2013年度から現時点までの進捗状況を示すとともに、当面3年間(2017年度まで)と2018年度以降の詳細な施策実施スケジュールを整理した」とする「工程表」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/kouteihyo.pdf)には、「マイナンバー制度の徹底利活用」に関する頁が、下記のように2頁(46、47頁)設けられている。


なお、上の図(2枚目)に出て来る「マイナンバー制度の活用等による年金保険料・税に係る利便性向上等に関するアクションプログラム」(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nenkin_kentou/dai3/houkoku1.pdf)は、内閣官房副長官を座長に社会保障・税一体改革担当大臣の下に設置された「年金保険料の徴収体制強化等のための検討チーム」が、2015年6月22日に取りまとめたもの。
アクションプログラムは「国民の利便性向上」や「行政効率化」とともに、「マイナンバーの利用開始により、日本年金機構と国税庁・市町村の間の情報連携が強化されること等を踏まえ、年金保険料の徴収強化に関する取組を一層推進することとする」としている。
■やはり暴走していた「アベのマイナンバー」
以上「日本再興戦略 改訂2015」に書かれたマイナンバーの利活用策は、筆者である黒田が「IWJ Independent Web Journal」に寄稿した「暴走するアベのマイナンバー ~『カジノ入館』にまで!? 政府が描く、国民総背番号制の驚愕の“未来図”の正体」(http://iwj.co.jp/wj/open/archives/249621)で紹介した「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」の内容とそっくりである。

このロードマップ(案)は、5月20日に開催された政府のIT総合戦略本部のマイナンバー等分科会に福田峰之・内閣府大臣補佐官が提出したものだ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/number/dai9/siryou6.pdf)。その時点では「案」に過ぎなかったはずだが、わずか1ヶ月あまり後には、閣議決定され国の方針となったのだ。
ロードマップ(案)は、福田補佐官の個人的な思いつきでも、妄想でもなかったわけだ。
ほとんどの国民が知らないまま、知らせないまま、「未来への投資・生産性革命」をうたい文句に、国民の個人情報を活用した新たなビジネスモデルの創出として、一方的にマイナンバーの利用範囲の拡大をすすめていく安倍政権。「アベのマイナンバーの暴走」は、もはや間違いのない事実なのだ。