マイナンバー 待ち受ける私たちの未来 (5)
この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。
目次
(1)共通番号制度が始まって数年後の201X年――A市の市役所にて
(5)A市内にある親切岳度医院の受付窓口
「いらっしゃいませ、こんにちは。わたくしは受付を担当させていただいております親切岳度医院の診療駄目子と申します。今日は、どうされましたか」と、ニッコリ応対する診療駄目子こと0197****085
1478****578「あの~、この子なんですけど、熱出したんです。こちらの診療所は、今日初めてです。慢性疾患なんで、ずっと格差会混合診療病院で診てもらってるんですけど、遠いものですから。こちらで診ていただけます?(もっと混んでると思ったのに、結構、すいているな)」
2170****026は、孫をおんぶして横に立っている
0197****085「ご心配いりません。診療カルテは電子化されていますので、日本中、どこの病院でも診療所でもネットで患者様のカルテをお取り寄せすることができます。格差会混合診療病院様からも、もちろんお取り寄せできます。検査記録も投薬記録もすべて大丈夫ですし、必要があればDNA情報も(本人だけでなくて家族のも引っ張り出せるんですよ、最近は。遺伝が関係してないかとか調べるためにね)」
2170****026「よかったね、ミーちゃん、いつもの先生じゃないけど、診てくれるって。良くなったら、ハンバーガー食べに行こうね。でもミーちゃんのお母さんは、フライドチキンの方が好きかな。おばあちゃんは、最近、牛丼にはまってるけどね、だって、おじいちゃんと2人で行って、ワンコインだからね」
0197****085「では、国民IDカードをお願いします。えっ~と、お嬢様は、まだお持ちじゃないでしょうか。もしまだでしたら、お母様の国民IDカードで結構ですので、お願いします」
1478****578「生まれたらすぐにでももらえるらしいけど、市役所に請求したら。でも、この子はまだ」と2170****026に
2170****026「そうね、いろいろあったからね」
1478****578「ううん、そういうのじゃないの。赤ん坊なのにIDカードって変よねって、2人で話してたから(あの頃は、まだ会話があったな)」と、遠い目をしながら、国民IDカードを0197****085に
0197****085「ありがとうございます。では、被保険者資格を確認させていただきます」と言って、受け取った国民IDカードを目の前のパソコンのスロットに挿入する
と、少し困った顔をしながら0197****085「申し訳ございませんが、共通番号1478****578の困田奈々子様の国民健康保険の被保険者資格は停止されています。このカードでは、共通番号52・・・様、あっお嬢様ですね、自費診療扱いとなりますが、それでもよろしいでしょうか(今日は、これで何人目かな)」
2170****026「えっ、あんた、健康保険入ってないの。会社やめたら国保に入らないと。ミーちゃん、からだ丈夫じゃないんだし、市役所で手続きしないの」とビックリ
1478****578「ううん、いまは手続きはいらないらしいよ。共通番号があるから、クビになったら、放っといても全部自動的に国保になるんだって、派遣会社の人が言ってた。そうじゃないんだ。お金がなくって、保険料、ぜんぜん払ってないの。だから……」
2170****026「えっ、あの人からもらってないの。あんたが親権とったからって、養育義務は、あの人にもあるのよ、お金ふんだくってくりゃいいんだよ。あんな男(って、それでもミーちゃんのお父さんなんだけどね)」
1478****578「もう、あの人とは話したくないのよ(疲れたの)。それに言ったってお金くれるわけないし、きっと家でゲームしてるか、ゴロゴロしてるだけ。あいつもクビになったの(それが別れる切っ掛けになったんだけどね)、わたしと同じ。みんな失業中。お父さんだってリストラにあったんでしょう」
2170****026「何言ってるの、リストラされたけど、いま、お父さん、ちゃんと仕事してるよ、ビルの警備員だけどね。毎晩、わたしの作った弁当持って出かけるの、朝までがんばってんの。わたしもポスティング始めたとこだったのよ、あれ結構おもしろいの、運動になるしね。犬にワンワン吠えられたりするけど。年金もらえるようになるまでは元気でいないとね。配るのにせっかく馴れてきたのにね、こっちへ来なけりゃならなくなっちゃってね。ほんとミーちゃんのお母さんは困ったちゃんですね」
1478****578「ふ~ん、そうなんだ(犬にワンワンか、猫ならニャンニャンだ)。それよりどうしよう」
0197****085「国保料の滞納ですか。よくあるんですよ。まったくお金ありませんか? 少しでも何とかなりませんか、すぐに国保のコールセンターに電話して、いま、これだけ支払うから、残りはいつまでに支払うからって言ってみてください。そうしたら、国保のデータセンターのデータを短期保険証に書き換えてくれますから(でも、最近は、この交渉がうまくいかない人が多いですけどね)」
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コンピューターの声「はい、こちらKTSO、国民健康保険とりたてサービス機構のコールセンターです。ただいまおつなぎしますので、このままで、もうしばらく待ちください」
1478****578(あっ、ここも、さっきと同じフォーティシックスの歌が流れてる。『Yeah、Yeah~ みんなに迷惑をかけないようにしようよ Wow、Wow~』って何よ、変な歌詞)
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9962****345「お待たせいたしました、KTSO、国民健康保険とりたてサービス機構のコールセンター、担当の電話田受子でございます。ご用件をどうぞ」と電話田受子こと9962****345がはきはきと
1478****578「滞納している国保料、少しだけですが払いますので、保険証使えるようにしてもらえませんか」
9962****345「お支払いですね。携帯電話からの発信ですね(携帯だと確実に相手が特定できるからね、手間が省けていいよっと)。では、最初に、国民IDカードに印字されている共通番号をお知らせください」
1478****578「1478****578です」
9962****345「共通番号は1478****578ですね。では、本人確認いたしますので、パスワードを携帯電話からご入力ください」
1478****578が、パスワードを入力
9962****345「はい、ありがとうございます。確認いたしました。困田奈々子様ですね。お客さまの本日までの滞納額は延滞金含めて131,481円です。このため、現在、被保険者資格は停止となっております。本日は、おいくらお支払い願えるのでしょうか。クレジットカード払いか、コンビニ払いが選択できます。もちろん、お客様が先ほどご利用されましたNMC、何でも親切代行丸儲けサービスセンターでもお支払いは可能です。KTSO、国民健康保険とりたてサービス機構といたしましては、全額お支払いをお願いしたいのですが」
1478****578「(わっ、さっき行ったサービスセンターのことまで知ってるんだ、すごい) 一度にそんな払えません。失業中なんです。いま、診療所に来ているんです。子どもが熱を出して。保険証使えなかったら全額自己負担だっていうし、困ってるんです。いくら払ったら使えるようになります?」
9962****345「申し訳ありません。お客さまが失業により国民健康保険に移られたこと、また現在も失業中であることは、こちらでも共通番号を使って確認しております。また、離婚後、お客さまが親権者となられたお嬢様が、慢性疾患であることも充分把握しております(相手に事情を言わせる前に、こっちから先にそんなこと知ってるよと……これがマニュアルにあった先手必勝の極意です、ん~わたしカッコイイ)。しかし、規則で、そういったお客様個人の問題は自立・自助、自己責任の原則から、一切考慮できないことになっております。ただ、どうしてもお客様の極々個人的な問題でお支払いが困難である場合は、滞納額の半分程度お支払い願い、残りについても具体的な支払い計画を示していただければ、短期被保険者証の扱いをさせていただくことができます。いかがでしょうか」
1478****578「(本当に何でも知ってんだね、わたしのこと。みんな筒抜けだよね)半分って、えっ~と65,000円か、えっ!そんなお金ありませんよ。でも3万円くらいなら何とかなります。あとは今月中には何とかします(3万円くらいなら、おばあちゃん出してくれるよね、あとは全然当てないけどね、何とかなるくらいなら苦労しないし)」
9962****345「申し訳ありません。それでは、資格証明書の扱いとなります。この場合、医療機関の窓口で一旦全額お支払い願いまして、後日、KTSO、国民健康保険とりたてサービス機構よりお客さまに国民健康保険適用額を還付いたします。ただし、還付の時点でまだ滞納がございます場合は、滞納額と還付金とを差し引きさせていただきます」
1478****578「(それじゃ、意味ないじゃん)困ります。なんとかなりませんか」
9962****345「いま、こちらで共通番号を利用して、お客さまについて、いろいろと調べさせていただいたのですが、お客さまはクレジットカードをお持ちではありませんし、銀行や消費者金融などからもお金を借りていらっしゃらないようです。また、過去に借金の返済を滞ったとの記録もありません(1478****578は偉いね、学生の時の奨学金も利息つけて毎年ちゃんと返しているようだし)。そこで提案ですが、わたしどもKTSO、国民健康保険とりたてサービス機構の系列に、この度、金融庁のご承認をいただきまして、KTSK、国民健康保険とりたてサービス金貸し会社を設立いたしました。お客さまの場合、条件的に問題ありませんので、国保料滞納額の3分の2を限度に、ご融資が可能です。もちろんご融資したお金は、全額滞納の支払いにあてさせていただきます。また、滞納の残額については、2ヵ月以内にお支払いいただけることをお約束いただければ、2ヶ月間利用可能な短期被保険者証の扱いをさせていただくことができます。なお、利息は、年7.3%です。お申し込みいただければ、直ちにご融資できますが」
1478****578「こどものことだから……お願いします(勤め先さえ見つかったら何とかなるよね、少しずつなら返せるかも)」
2170****026「わたしが出せればいいんだけどね。わたしもお金ないし。帰りの新幹線代もいるし」と横で聞き耳立てながら
9962****345「ありがとうございます。ただ、連帯保証人が必要です。いま、お客様のお母様、共通番号2170****026様がお隣にいらっしゃいますよね。お電話を替わっていただけないでしょうか」
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