マイナンバーは国民を選別するためのシステム ――講演レジュメより
2014年9月に某所で行った講演の際のレジュメです。ご参考までにどうぞ。
マイナンバー制度、プライバシー、監視社会
2014年9月
自治体情報政策研究所 黑田 充
0.はじめに
今日の話の中心は「マイナンバー制度」
「マイナンバーでプライバシーが心配」というが・・・
個人情報を巡る昨今の焦点は「保護」ではなく「活用」
最近よく聞く「ビッグデータ」は個人情報の活用の話
マイナンバー制度は監視社会を招くと言われるが、そもそも監視社会とは如何なるものか
政治・社会の右傾化とマイナンバー制度の関わりをどう考えるのか?
1.監視とは何か
監視(surveillance)とは何か
監視の両義性 配慮(care)と管理(control)
監視=「悪事」ではない
見張るだけでは監視ではない
対象を分類し、シミュレーションし、リスク管理する
そして、必要に応じ対象に働きかける
許可、制限、排除、禁止、拘束、誘導、提供、優遇等々
注意が必要なのは、監視は権力的である点。例え双方向であったとしても平等ではない
2.監視を実現するには情報が必要
個人を監視するためには、その者に関わる「個人に関する情報」が必要
個人に関する情報 属性に関する、内面に関する、行動に関する
対象が誰なのか、いまどこにいるのか、何をしているのかなどが、わからなければ監視できない
より精度の高い監視のためには、より詳しい、より正しい、より新しい「個人に関する情報」が必要
一方、我々は「個人に関する情報」を日々ばらまき続けている
就学、就労、買い物、通学、通勤、通行、通話、メール、申請等々
ばらまかなければ生活が出来ない
3.現代社会は「監視社会」?
現代的な監視の特徴
ばらまかれた個人に関する情報が、コンピューターやネットワークを介して収集され、記録され、分析されることによって、我々は日常的に、クラシフィケーションやカテゴライズ(分類、選別)、ソート(順序づけ、等級付け)されている
こうした傾向は、コンピューターやネットワークの発展、普及、高度化によりますます強まっている いわゆる高度情報化社会の到来
我々の住んでいる現代社会は、監視の容易化、日常化、普遍化、遍在化(ユビキタス)が日々進行している「監視社会」である
・・・プライバシー(自己情報コントロール権)の問題
4.監視と識別
しかし、ばらまかれた個人に関する情報の多くは、「断片」に過ぎない
より良い監視(分類、シミュレーション、リスク管理)のためには、これら断片化された情報を集め、個人を仮想的に作り出すことが必要
そのためには必要なのは、名寄せ、データマッチング、プロファイリング
コンピューター上に個人のコピーを作り出すには、個人を識別(特定)することが不可欠
この情報の所有者(ばらまいた者)は、だれなのか
Aという情報をばらまいた甲と、Bという情報をばらまいた乙は同一人物なのか
個人への番号付加は、正確な識別にとって最適な方法の一つである
いま求められているのは、複数の記録装置をまたいで「仮想的な個人」(人格のコピー)をコンピューター上に作り出すこと ← 複数の記録装置を貫く識別
Aという記録装置に記録された甲の個人に関する情報と、Bという記録装置に記録された甲の個人に関する情報を必要に応じて名寄せし、監視をより高度化する
マイナンバー制度は、最初から複数の記録装置をまたいだ名寄せのためのシステムとして構築される
5.監視の主体と目的
監視(「配慮」と「管理」)をするのはだれか、その目的は
個人 とりあえずパス、相互監視という魅力的な議論はあるのだが
企業 「配慮」も「管理」も利益追求のため
例えば、ポイントカード、大阪駅の監視カメラ
国家 「配慮」・・・福祉、「管理」・・・統制
当たり前だが「だれが何の目的で」が一番大事 +どのようにして
ただし、監視は権力的であり、個人、企業、国家を同列に論じることは出来ない
6.現実に戻って マイナンバー制度とは何か
番号制度の根拠法
行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)
民主党政権が自公政権での検討を受け継ぎ法案化
自公民三党で修正合意したが解散により廃案に
安倍政権が修正提案し、自・公・民・みんな・維新等の賛成により2013年5月に成立
マイナンバー制度の目的と利用範囲
市町村の保有する住民票に基づき、全ての国民等(国民、特別永住者、中・長期在留外国人)に個人番号(12桁の数字)を付番し、これを使って行政機関等(国の省庁、地方自治体、日本年金機構、健康保険組合、医療機関、介護事業者等)の保有する個人情報を名寄せし、社会保障や税、災害対策などの分野において活用する
スケジュール
2015年10月に付番・通知
2016年1月から利用開始
2018年頃を目途に利用範囲を再検討
二つの番号カードを交付
通知カード 付番された全ての国民等に交付
個人番号カード 申請に基づき交付
相手(行政機関、雇用主等)に番号を告知する必要
+告知した番号が正しいことを証明する義務
→ 番号を記したカードを示す必要 → カードを持たざるを得ない
7.マイナンバー制度における市町村の役割
国民の個人情報、特に基本的な個人情報を持っているのはだれか
市町村抜きでは番号制度は成り立たない
付番には名簿が必要だが、住民の名簿を持っているのはだれか
住基ネットも住民票コードもなくならない
93利用事務のうち、都道府県が主体は32事務、市町村が主体は31事務
現在、市町村で番号利用への準備が進められている
個人情報へマイナンバーを紐付け、国の機関等に提供するためのシステム改修
条例を定めれば、自治体による独自利用も可能
8.マイナンバー制度と監視
構築される番号制度は、全ての国民等を対象とした「監視」のためのシステム
ある特定の人を監視するためだけのものではない
対象とする国民等が必要な基準を満たしているのかどうか選別したり、国民等の中から一定の基準にもとづいて特定の人を選び出したりするために使われる
そもそも番号制度導入の出発点は、安上がりの社会保障制度の実現 ←小泉構造改革
市場化・営利化、自助・自立・自己責任
「真に手を差し伸べるべき人」(⇔生きるに値しない命)の選別
生活保護、終末期医療等々
当然出て来る「同じ作るなら、もっと利用しよう」の声 ←財界、政界、官僚、公安筋等々
「○○にも使えるのでは」的発想で利用拡大
2018年頃を目途に利用範囲を再検討 ← 民間利用を求める財界
9.政治・社会の右傾化とマイナンバー制度
秘密保護法、集団的自衛権行使容認、徴兵制導入論議・・・
テロ対策、治安対策と個人情報
徴兵、徴用と個人情報 戦争は誰がするのか
経済的徴兵制の現実性
では現在の番号制度は、テロ対策や戦争に役立つのか
現在示されているマイナンバー制度の利用分野-「個人番号の個人情報への紐付け」だけならそれほど役に立たないだろう
問題は、「国家目標」の実現に役立つように「個人情報への紐付け」が拡大されていく可能性が大きいということ 様々な行政分野、民間利用
10.おわりに
マイナンバー制度の合法的利用と非合法
合法と非合法の境界線
個人による犯罪 例えば、目的外使用 ・・・法違反
組織による犯罪 基本的人権の侵害 ・・・憲法違反
利用目的・範囲が秘密にされる可能性
「法」「システム」さえ正しく作られれば大丈夫なのか?
マイナンバー制度廃止(中止)の可能性
残念ながら関心は皆無。むしろ歓迎する傾向が強い
では、どうしていくのか
「知らない」「大事なところが知らされていない」が最大の問題
「監視社会」を前提として、監視をどう市民として民主的にコントロールするのか、できるのかが「人類の課題」ではないか
« 住民票を移せない人たちを切り捨てるマイナンバーの政府広報 | トップページ | 住民票を移せずマイナンバーが届かない人はどうなる ――社会保障、雇用から排除される可能性 »
「資料」カテゴリの記事
- マイナンバーの登場で、住基ネットは終わったのか? 本当に「無駄」だったのか?(2016.01.28)
- マイナンバー法案の参議院内閣委員会での可決に際しての附帯決議 なぜか生体認証の導入を求める(2015.09.04)
- 「共通番号もカードもいらない! 全国討論交流集会」(8/28・29)での黒田の報告「際限なく拡大するマイナンバー、カードの利活用」のレジュメ(2015.09.02)
- 市町村議員のみなさんによるマイナンバーの学習会での講演レジュメ(一部)(2015.09.01)
- 市町村の「マイナンバー解説」を比較しました ――大阪編 【作成中】(2015.08.19)
« 住民票を移せない人たちを切り捨てるマイナンバーの政府広報 | トップページ | 住民票を移せずマイナンバーが届かない人はどうなる ――社会保障、雇用から排除される可能性 »